離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 会釈をしてソファに座ると、私たちの向かいに玲司のお父様である北山誠司氏がやってきた。

「すまないね。こんな姿で」

 笑みを浮かべてはいるが、血色はあまりよくないし声も小さめだ。

 たしか四年前、玲司を跡取りにと望んだのは、本人の体調不安があったためだ。現在の病状について玲司から歩くのもままならないと聞いていたが、ここまでとは思わなかった。

「お父さん、お加減はいかがですか?」

「ああ、今日はすごく気分がいい。息子が彼女を連れて会いにきてくれたからかな」

「君が玲司の大切な人か」

 視線を向けられた私は頭を下げた。

「鳴滝琴葉と申します」

「琴葉さん、見かけ同様かわいらしい名前だ」

 優しく笑う表情を見ていると、雰囲気がどことなく玲司に似ているような気がした。

「お父さん、琴葉は俺の唯一なので、口説くのはやめてもらってもいいですか?」

「おいおい、心の狭い男は嫌われるぞ」

 親子間のやり取りを見ていると、お互いに気を遣っているのがわかる。けれど空気はそこまで悪くなかった。

「やっと私の琴葉を紹介できてホッとしました」

「玲司は別れた妻が忘れられないからと、ずっと縁談を断っていたんだ。琴葉さんがもう一度受け入れてくれなければ、こやつは永遠に独り身を通すつもりだったようだがこれで安心したよ」

 お義父様の言葉に違和感を覚えた。

 四年前、私と玲司の離婚をのぞんでいたのではないの?

 厳しいことを言われると思っていたが、歓迎されているようで安心した。しかし予想と反する態度に戸惑ったのも事実だ。

「結婚は心通う相手とするのがいい。儂は色々と間違えてしまったからな」

 お義母さんとの関係を暗に示しているようだった。奥様はすでに亡くなられているようだが、子どもには恵まれなかったらしい。だからこそ玲司を北山の家へと望んだと聞いている。

 お義父様の結婚生活がどういったものだったのか、玲司も知らないだろう。ただお義母さんと結婚しなかったことを、そして玲司を共に育てられなかったことを後悔しているのかもしれない。

「息子が幸せになるんだから、あれもそろそろ儂のことを許してくれてもいいだろうに」

 お義父様は力なく漏らした。

「母は頑固ですからね。だからこそ、私をひとりでここまで大きくできたんでしょう。ただ最近ひとり暮らしが心配になってきたので、私からも色々とアドバイスしてみます」

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