離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「尾崎、君がさも親父の希望だと言わんばかりに、琴葉に離婚を迫り、母に説得させたのか?」

 え……。

 思わず声が出そうになったが、すんでのところで耐えた。

「……はい。さようにございます」

 尾崎さんの返事を聞いて、その衝撃に驚きを隠せない。

「なぜそんな勝手なことを。親父は君を信頼していたのに」

 たしかに先ほど北山会長の車いすを押している姿は献身的に見えた。彼を裏切るようなことをするのにはなにか理由があるのだろう。

「なぜ? あなたがそれを言うのですか? あなたたち親子の存在が私の姉をどれほど苦しめたと思ってるんですか?」

 怒りに満ちた目で玲司を睨んでいる。今まで一度も感情を表に出さなかった尾崎さんがはじめて心の内をあらわにした。

「姉? それは北山会長の奥様の事か?」

 会長の奥様はすでに亡くなられている。しかしお義母さんと玲司は北山家とは一切連絡を取らずに、母子ふたりでつつましやかに暮らしていたはずだ。

 それなのになぜ、玲司たち親子が彼女を苦しめたというのか?

「わたくしは、姉の結婚と同時に北山家で会長の個人秘書として働きはじめました。ちょうど就職先を探していたところ姉の嫁
ぎ先で働かないかと誘われて即決しました」

 かなり昔の話にもかかわらず、思い出すそぶりすらなく話し続ける。

「仕事にありつけたのもありがたかったし、なによりも姉のことが心配だったんだ。政略結婚だなんて大丈夫なのかって」

 身元がいくらしっかりしても、人間同士なので相性というものがある。だから心配するのは至極まっとうなことのように思えた。

 当時のことを思い出し語る尾崎さんからは、いつもの丁寧さが消えていた。おそらくこれが彼の素の部分なのだろう。

「姉は見合いのときに、会長にひとめぼれをしていて結婚をすごく喜んでいたんだ。だからこそ気がついたんだろうな。いくら優しくされても会長の心が自分にないことを」

 ああ、やっと話の筋が見えてきた。

「うちの母と会長は、見合いの前にはすでに別れていたはずだ。俺たちの存在をわざわざ調べたのか?」

「そうみたいだな。女の勘とは恐ろしいものだ」

 尾崎さんはうっすらと笑ったが、目はするどいままだ。

「しかし俺は会長とは四年前までつながりがなかった。それなのに俺たちの責任にするのはおかしいだろう」
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