離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 玲司の言うことはもっともだ。玲司たち親子は北山との関係を絶って過ごしていた。お義母さんは会長の立場を理解していて、そうすることが彼のためひいては北山のためになると信じていたからだ。

 だから玲司は四年前まで自分の父親について、一切知らずに生きてきたというのに。

「つながりがない? 血のつながりがあるじゃないか! それがどれだけ姉を苦しめたと思ってるんだ。お前たち親子は存在するだけで迷惑だったんだよ」

 尾崎さんの言葉に、玲司は言葉を失くしている。

 その様子にひどく胸が痛んだ。なぜ玲司やお義母さんがそんなひどい言われ方をしなければいけないのか理解できない。

「謝ってください」

 私は我慢できずに口を開いた。玲司の存在を否定した尾崎さんの言葉が許せなかった。

「彼は私にとって自分を犠牲にしても大切にしたい人なんです。あなたなんかにそんな言われかたをされていい人じゃない。謝って!」

 思わず大きな声が出てしまった。

 これまでも尾崎さんからは、ひどい要求や態度をとられてきた。それでも我慢してきたのは玲司のためだと思ったからだ。

 それなのにそのすべてがただの彼のうがった感情から来るものだったなんて。

「なぜ謝らなくてはいけない? 姉は夫に愛されずに恨みごとを言いながら死んでいったんだぞ。お前たち親子さえいなければ、姉はあんなふうにならずにすんだんだ。それなのにあとからやってきて全部持って行くのか? じゃあ、姉の苦労はなんだったって言うんだ?」

 尾崎さんは涙を流しながら叫んでいる。おそらくもうこれ以上私たちがなにを言ってもその耳には届かないだろう。

「やっと本音を話してくれましたね」

 暴言をぶつけられているにもかかわらず、玲司は落ち着いていた。

「お前たちさえいなければ、姉は幸せになれたんだ」

「それはそうかもしれないし、そうでないかもしれない。あなたが勝手にお姉さんの気持ちを代弁するもんじゃない。それに復讐する相手が違う。それなら会長にはっきりと言ってやるべきだっただろう。所詮君のやったことはひとりよがりにすぎない」

 尾崎さんは悔し涙を流している。彼も頭の中では理解しているのかもしれない。けれど感情が追いつかないのだろう。
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