一番星になった君へ
【亜留side】

俺は小さい頃、親の都合で元いた町と特離れた場所に引っ越した。
引っ越す前に仲の良かった明愛と離れて暮らした。
俺はずっと明愛に片思いだったから余計辛かった。
高校に入学してから半年、生まれて初めて親に駄々をこねた。
『母さん、俺前の町に戻りたい』
『亜留が珍しいわね、でもね、そんなに簡単に引っ越せないのよ』
『それは俺もわかってるけど、父さんが死んでから母さんずっと顔色悪いよ』
そう、明愛と離れてから俺が中学二年のとき父さんは事故死でこの世を去った。
それから母さんは残業をするようになって顔色も悪くて痩せてきてる。
『そうね…』
『じゃあ俺アルバイトして金稼ぐよ』
俺がそう言うと渋々だけど許してくれた。
『でもまさかこの学校にお前がいるのは意外だな』
なんて言ったけどそれも全部俺が仕組んだこと。
それから必死にバイトして金をためた。
そして10下旬の日に転校した。
金を眺めている俺は相当笑顔だったと思う。
やっと明愛に会える。
また明愛と笑い会える。
想像するだけで楽しみになった。
クラスは離れるかもしれないけど、また明愛と会えるならそれでもいいと思えた。
でも明愛は俺を覚えてるのかな。
ふとそんなことが思い浮かんだ。
万が一そうでもまた俺を知ってもらおう。
自慢のポジティブ思考を取り戻して小さくガッツポーズをする。
「そんなに明愛ちゃんに会いたかったの?」
「杏奈、いつから居たんだよ」
「今帰ってきたところ」
俺には5つ上の姉の杏奈がいる。
杏奈はもう社会人で、この小さい町では美人で有名だとか。
俺にはさっぱりわからないけど、明愛も相当杏奈に懐いてたみたいだ。
「あんたは明愛ちゃんの事が好きよね〜」
「うっせぇ」
自分でも赤面してることはわかってるけど、どうしても強がってしまう。
「もう照れちゃって〜」
そう言って俺の脇腹を突く。
俺が脇腹弱いの知っててこの野郎め。
そこにいると怒りが治まらなさそうだから階段を駆け上がって自分の部屋に入る。
部屋に入るとさっきとは違ってシーンと静まり返る。
ボフッ…。
ベットに飛び込んで枕に顔を埋める。
心地よくて目を静かに閉じると小さい頃の明愛の笑顔、泣き顔、寝顔。色々な明愛が映し出された。
明愛は今はどんな感じなのかな。好きなヤツいんのかな。
明愛に会ったら聞きたいことがバンバン出てくる。
「楽しみだなぁ…」
ポツリと呟くと意識が遠のいていく。

そして今に至る。
勢いで明愛に告白してしまった。
「あんな事言うつもり無かったのに…」
ポツリと呟く。
俺って本当に馬鹿だよな…。
そう思うと目から涙が溢れ出てきた。
「あの、大丈夫ですか?」
俺が俯きながら泣いていると俺と同じくらいの女子が話しかけてきた。
「大、丈夫です…」
「…隣、良いですか?」
「…はい」
バーでかけられそうな言葉を言ってきたその子は俺の隣に静かに座った。
「私、桜山 真里と言います。えぇっと君は…」
「俺は木澤 亜留です」
「亜留くんかぁ、よろしくね」
真里という女性は俺の、顔をのぞきこんでニコッと笑った。
「真里さんは、今おいくつで?」
「私は高校3年生!亜留くんは?」
「あ、俺は高一です」
真里さん、年上なんだ…。それにしては若く見えるけどなぁ。
「さぁ!お姉さんに悩みをき聞かせてごらん?」
いきなり大きい声を出す真里さんにビクッとしながらもゆっくり口を開く。

俺が話してる間、真里さんは、口を挟まず相槌を打ちながら聞いてくれた。
全て話終えると真里さんはしばらく目を瞑った後、俺の目を真っ直ぐ見つめてから微笑んだ。
「亜留くんは小さい頃からずっとその明愛ちゃんのことが好きなのね?それなら真っ直ぐに伝えてよかったと思うわ」
「真里さん、ありがとうございます。結構楽になりました。」
いつの間にか流れてた涙は引っ込んで微笑みに変わってたことに自分でもびっくりした。
「そろそろ次のバス停でおりますね」
「あ、そうだ、またなんかあったらいつでも連絡してくれないかな?」
真里さんがそう言うとメールアドレスが書かれた紙を俺に渡した。
「はい。今日は本当にありがとうございました。」
俺がもう一度ぺこりとお辞儀をすると真里さんは再び微笑む。
「じゃあ俺はこれで」
「えぇ。また会いましょうね」
そう言って真里さんと手を振って別れた。
家に帰るともう家は暗くてもう母さんとか寝てるはずだからコソコソと家に入った。
いつもリビングから聞こえる姉さんと母さんの笑い声があるから賑わってるけど今は、怖いほど静か。
静かに階段を登って静かに自分の部屋に入って電気をつける。
デスクの上に置かれた小さい頃、明愛と撮った写真が飾ってある。
これももう11年前のもので、写真の周りは薄く茶色に染っていて、いかにも古い写真。
優しく撫でると今日の告白現場が映し出された。
『ごめん、亜留。他に好きな人がいるから付き合えない。』

「……っ!?」
その声が聞こえた瞬間目が覚めた。
窓から強い日差しが机の上の写真を照らす。
「なんだ、夢かよ…」
あのまま俺寝たんだ…。
起きようとまだ起きてない体を起こして腕を見ると明愛が作ってくれた青と白のミサンガが着いている。
小さい頃、アイツが不器用なりに作ってくれたミサンガ。
俺からもピンクと白の混ざったミサンガをあげたのを今でも覚えてる。
『めいあ、これあげるよ』
『めいあもこれ作ったよっ!』
あの時は偶然2人がお互いのを作っていて、それからずっとつけっぱなしだ。
これで先生に怒られたこともあったけど、絶対に外したりはしなかった。
「今何時だっ⁉」
慌てて時計を見ると、針は8時を回っていた。
連続遅刻は流石にやばい。急いでカバンを背負って階段を勢いよく降りると派手に転げ落ちた。
なんの音かとリビングから急いで来た母さん。
「あんた何やってんのよ」
俺が派手にコケてクスクスから大笑いになる母さん。
母さんが笑ってるの久しぶりに見たな。
「わ、笑うなよ!いってぇ…」
「久しぶりに笑ったわ。今日は笑わせてくれたお礼に送ってあげましょうか?」
ふざけてニヤニヤと笑う母さん。
「マジ?母さん太っ腹〜‼」
送ってくれると聞いて目を輝かせる俺。
早速母さんの車に乗ってスマホに目を向ける。
すると『メール8件』という文字に目が行った。
そのメッセージは全部明愛からだった。
…って、なんで俺のメール知ってんだ⁉
そう思って急いでメールを開く。
『やほー!明愛でっす‼』
『あ、今何で知ってんだ?みたいなこと考えてるでしょー?』
『亜留のお母さんにもらったんだよ〜(^o^)』
なんだ、母さんからもらったのか。
送られていたメッセージの横に小さく『PM10:25』と書いてあった。
『あれ、寝ちゃってる?』
それから30分後にメッセージが送られてきてた。
このとき俺はもう爆睡中だったと思う。
『夕方のことなんだけどさ』
上にスライドするとそう書かれていた。
ゴクリ…。
再び上にスライドする。
『告白の件なんだけど、もう少し待って欲しい』
『直接言うのは緊張しちゃってメールだけど』
『ごめんね。』
ここでメールは途切れていた。
そのメールを見返すと涙が止まらなくなった。
嗚咽を堪えながら涙を拭った。
「ごめんね〜、おまたせ」
母さんが慌てた様子で車に入ってきた。
母さんに泣いてるところを見られるとからかわれて杏奈に言われそうだから、慌てて腕で目をこする。
「じゃあ、行こうか」
母さんが微笑みながら俺に言うと車を走らせる。
俺はスマホと向き合いながら、今日、明愛と何を話すか、どんな顔で会えば良いのかを考える。
「亜留、着いたわよ」
スマホとにらめっこをしていると母さんに肩を叩かれる。
「ああ、うん。ありがと」
「行ってらっしゃい」
俺を校門の前で下ろすと微笑みながらもと来た道にUターンをした。
「亜留じゃん。やっほ」
そう言いながらぴょこぴょこ近づいてくるのは昨日、色々合って仲良くなった工藤 蘭。
女みたいな名前してるけどガタイは良くて、声は低め。身長は俺より5〜6センチ上で、高身長だ。
「おはよ」
「お前も寝坊かぁ?実は俺もなんだよなぁ」
一人でどんどん会話を進めてくからあんまり話さずに済むし、コイツといると結構楽な方だ。
「一緒に行こうぜ〜」
「いいよ」
蘭は高校一年のくせに金髪に染めていてピアスも何個も空いている。いわゆるチャラ男だ。
「俺らバリバリ遅刻してっけど一緒に怒られような」
ニヒヒと笑って俺の顔を覗き込む。
「受けて立つ」
俺もニヒヒと笑って二人でのんびり歩く。

教室についたのはもう完全遅刻の9時半。
HRだけじゃなく一限時も始まってる頃だ。
ゆっくり歩きすぎて、校門に下ろしてもらった頃から1時間も経ってしまった。
「お前らまた遅刻かよ。さっさと席につけー」
「ソーリーソーリー」
蘭がふざけて英語で謝るとクラスは笑い声でいっぱいになった。
その中で席の方を見ると静かに読書をしてる明愛が視界に入った。
「おはよ」
俺が席の隣まで行って明愛にいうと明愛はゆっくり顔を上げて微笑んだ。
「うん、おはよ」
明愛の笑顔に心臓が高鳴る。
「あ、そうだ。放課後時間あるかな」
俺が席につこうと机に手をつくと明愛は読んでた本を閉じて言う。
「空いてたら買い物に付き合ってほしいんだけど」
「え、あ、いいよ」
"付き合ってほしい"という言葉に戸惑ってしまったけど絶対その"付き合って"じゃないことは確か。
明愛は右頬にうっすらエクボを作ってニコッと笑ってから再び読んでた本に目を移した。
俺は明愛の横顔をじっと見て黒板を見ると一番前にいる蘭がニヤニヤしながらこっちを見てる。
アイツ…!
クチパクでやめろと言うと蘭は「なんにもしてないよ」と言わんばかりに
蘭には俺が明愛のことが好きなのは秒でバレていた。
初対面で話しかけて来たときもそのことからだった。
まるで小さい頃から知り合いだった気がしてアイツには全部話せた。
だからいま俺を一番知ってるヤツは蘭だけ。
アイツは勘が鋭いし、相談にも乗ってくれる。
まだ会って2日なのに俺の心を見透かしてるみたいで、少し怖い。
男の俺がこんなこと思ってるとか知ったら気持ち悪がられるだろうな。
「おい田澤、起きてるかー?」
斎藤先生が俺の名前を呼ぶ声でハッとした。
「…ったく、何ぼーっとしてんだよ」
「あ、考え事してました、すいません」
ふざけて笑うとクラス中が笑いに包まれた。
「恋でもしたのかー?転校してきてからまだ2日だぞぉ」
斎藤先生の言葉でさっきよりクラスは大盛りあがり。
廊下にはなんの騒ぎかと聞きつける他クラスのやつら。
「まあ、そんなとこっす」
説明するのがめんどくさくなってテキトーにそう返事をする。
隣を見るとクスクスと笑う明愛。
ドクン…。
俺の顔は素直みたいだ。みるみるうちに赤くなるのが自分でもよく分かる。
明愛は俺と目が合えば、窓の外を眺める。
高く結んだポニーテールは風に吹かれて金木犀の匂いがほんのりと香る。
そんな明愛を見ているといつの間にか教室は静かになっていて視線が俺たちに注目していた。
「お前ら両思いかぁ?」
斎藤先生に続いてクラスメイトからは冷やかしの声。
「ち、ちげえし!」
慌ててムキになるともっと怪しまれた。
「照れ隠しですね〜」
蘭が先生にニヤつきながら言う。
「授業に戻るぞ〜」
くそっ…。ほぼ公開告白じゃねぇかよ…。
俺の発言で明愛も迷惑してんだろうな…。
そう思って明愛の方を見るとうつむいていて、耳まで真っ赤になっている。
俺はほんとにバカだな…。
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