一番星になった君へ
【明愛side】
亜留が転校してきてから1ヶ月経とうとしている。
亜留に告白されて最初はあまり上手く話せなくてドギマギしてたけど、1ヶ月も経てばそんなことはほとんど、いや、全くなくなった。
「あ、そうだ!今日新しくできた店の服見に行かない?」
昼休みに話をしていた潤羽が言い出す。
「いいけど、なんかあるの?」
「そこで推しとコラボしてるんだぁ!」
ニコニコ笑ってる潤羽のことを見てると私も心がほっこりする。
「ふふ」
「なによぉ」
私が笑うと潤羽はぷくっとほっぺを膨らませた。
潤羽は女の子なのにかっこよくて優しいけど、推しのことになると女の子って感じになって、男子からしたらギャップ萌えらしい。
男子だけじゃなくても女子にも大人気だけど、潤羽には中学から付き合ってる彼氏、桜井 祐希(さくらい ゆうき)がいる。
私も祐希とは顔見知りで仲は良い方だと思うけど、高校が離れてからはまだ一回も会ってない。
時々潤羽と二人で買い物に行くことはあるみたいなことを聞いてるけど、最近祐希の話を控えるようになった潤羽にちょっと違和感を覚えてる。
中学生の頃は祐希とお出かけしたら惚気話を永遠と聞かされてたけど今はそんななんだよな。
「あ…ごめん、祐希くんから電話だから出てくるね」
ほら今だってせっかく大好きな彼氏からの電話なはずなのに潤羽はそんなに乗り気じゃない。
「うん、さきにお弁当食べてるね」
「ごめんね、ありがとう」
そういって急ぎ目で教室を出る潤羽を見送ってから、お弁当箱を開ける。
お弁当の中身はソーセージにミニトマト、色とりどりな具材が盛り付けられている。
「お前一人で食べてんの?」
頭上から聞こえた低い声にびっくりして勢いよく顔をあげるとニヤニヤした亜留が立ってる。
「うん、潤羽が来るまでね。亜留も一人?」
「まっさかぁ」
私の問いかけに首を横に振って親指で背中後ろにいる女の子二人と蘭くんを指差す。
「4人で食べてるのになんで私のとこ来たの?」
「お前が寂しそうだったから」
そう言ってウシシと笑って私の頭に手をぽんぽんって。
そんな亜留の行動にいつもドキドキしてばっかの私は亜留から目をそらす。
「あ、お前照れてんのかー?」
私が目をそらした瞬間、亜留は私の髪を崩さないようにワシャワシャするけど、ワシャワシャされたらグシャグシャになる。
普通はされたら怒るけど、亜留にされたら心臓が変な音を立てるから、心は素直だ。
「やめてよ、そういうんじゃないから」
なのに私は強がってこういう事を言っちゃう自分に嫌気が差す。
「なに怒ってんだよ?」
さっきまで笑って言ってたのが嘘のように真剣な声になる亜留。
「別に何もないよ」
亜留の顔を見ずに言ったから亜留がどんな顔をしてるのかわからないけど、すごく怒ってる気がする。
こんな些細なことで喧嘩になりたくないのに、心の隅で怒ってる自分がいる。
だって…私のことが好きって言っておいていつも私以外の女の子二人と楽しそうに話してるし。
私のことが本気で好きなら誘われても誘いを断るはずなのに…。
グッとスカートの裾を力強く握る。
「明愛、こっち向けよ」
「……」
「こっち向けって」
「もうなんなのよっ!」
叫んで席を勢いよく立ち上がると、クラスにいた全員が私に視線を向ける。
さっきまで賑わっていた教室とは裏腹にシンっと静まり返る。
「お前…」
気づいたら私の頬に一滴の雫が伝った。
あ…、私泣いてるんだ…。
「ごめ…っ」
私はもうそこにいたくなくて気づけば教室から飛び出していた。
「めい…!」
後ろから潤羽が叫んでたけど、私に声は聞こえなかった。
その後すぐ教室の扉が勢いよく空いた音がしたけど、追いかけてくる足音は全然聞こえない。
追いかけてくれるって心の中で期待した私がバカだったな…。
「はぁっ…、はぁっ…」
膝に手をついて周りを見渡すと屋上に居た。
無我夢中で走ってたから分からなかった。
「亜留のばかぁー!」
力いっぱい上を向いて叫ぶと次から次へと涙が溢れてくる。
「うぅ…っ、うわぁん…」
堪えきれなくなって嗚咽を漏らす。
こんなに泣いたのはいつぶりかな…、もう11年くらいかな。
そう思うと足がふらついて意識が遠くなっていく。
目が覚めると屋上の入口の壁によりかかってる私。
あれ、あったかい…。
肩に手を置くと上着がかかっている。
「やっと起きたか。お前ねぼすけだなぁ」
隣から呆れたような私の大好きな声が聞こえて隣を見ると、白い歯を見せて笑う亜留とバチッと目が合う。
「あ、亜留っ!?」
びっくりして思わず大声を上げてしまう。
「なんだよ大袈裟だな」
「だって今、えっと…」
パニックになる私を見てギャハハと大声を上げて笑う亜留。
「お前のこと追いかけて来たらお前屋上で寝そべってんだ」
再びギャハハと笑って頭を撫でてくれる。それがとても居心地が良くてまた瞼が重くなる。
「おいおい、お前まだ寝たりねーのかよ。しゃーねな」
亜留はそう言うと私の肩に手を置いて寄りかからせてくれる。
「いや、いいよ、私…」
「はいはい、文句言わない。寝んねーんころーりーよ」
昔から歌が下手な割に歌ってくれる亜留にクスクス笑ってから目を閉じる。
次に起きた時にはもう空はオレンジ色に染まりかけていた。
スマホを取り出そうとポケットに手を入れるけどスマホが見当たらない。
あ、そっか、昼休みに教室を飛び出したからスマホ教室だっけ……。
「うぅん…?」
隣を見ると私の肩に寄りかかって寝てる亜留の寝顔が間近にあり、びっくりしながらも昔のことを思い出していた。
昔もよく私の肩に寄りかかって寝てたっけな。
でも昔の亜留はほとんど居なくて、今私の隣にいるのは、大人っぽくなった亜留の姿。
黒髪に見えてた髪色は夕日の光で茶髪になっていて。
心地よい風が通り抜けるとストレートな髪はサラサラと揺れる。
「あーあ、もうこんなに大きくなっちゃって…」
ぼそっと呟いて亜留にしてもらっていたように亜留の頭をそっと撫でる。
「うん…?明愛?」
「あ、起こしちゃった?」
亜留は軽く伸びをする。
「帰ろっか?」
亜留が言う言葉にコクリと頷いて立ち上がってから、2人で階段を降りて、教室に向かう。
「もうHR終わっちゃってるね」
「だな」
教室に着くともう教室には誰もいなくて、私たち二人だけ。
「なぁ、明愛」
「なぁに?」
亜留に、名前を呼ばれて振り返ると亜留の真っ直ぐな瞳が私を捕らえる。
一瞬の出来事だった。
え…?今私なにされたの…?
自然と私は自分の唇を両手で抑える。
私は数秒放心状態になったけど、すぐ状況を理解する。
亜留とキスしちゃったんだ。
「あ、えっ…と、」
喉になにかが詰まったような感覚でうまく言葉が出せない。
「ごめん明愛、俺は充分待ったから…返事、教えて欲しい」
久しぶりに見た亜留の困り顔。
私を見つめる瞳は、小さくて弱い少年の目で、私は逸らせずに亜留と見つめ合う。
「…私ね、ここ1ヶ月間ずっーと考えてたんだ、告白の返事。」
「…うん」
「でも、今日やっとわかった」
「……」
「亜留が他の女の子と仲良くしてたりすると苦しくて苦しくて、しょうがなかった。」
私は深呼吸をしてから亜留を真っ直ぐに見つめる。
もう自分に嘘はつかない。
「私、亜留が大好きです。私で良かったらお願いします…」
その言葉と同時に私は頭を下げる。
私の告白の言葉はかすかに震えているのが自分でもわかった。
「こちらこそ」
その一言が私の耳に届くととめどなく涙が溢れ出してくる。
下げてた頭を上げて亜留の方を見ると亜留は頭を照れくさそうに掻いて二カッと白い歯を見せて笑う。
「なんでお前泣いてんだよ」
「だってぇ…」
また泣き出してしまう私を亜留は優しく抱きしめてくれる。
ドクンドクン…。
耳を澄ますと亜留の心臓の音がかすかに聞こえる。
「じゃあ、もう帰ろうか」
「…うん」
私と亜留は学校を出てから並んで歩いてると気づけば自然に手を繋いでいた。
亜留はギュッと強く、優しく手を握ってくれた。
亜留の手は私の手より大きくて私の手全体を包み込んでくれる。
こんな幸せな日々がいつまでも続きますように。
夕暮れに輝く一番星にそう願って。
亜留が転校してきてから1ヶ月経とうとしている。
亜留に告白されて最初はあまり上手く話せなくてドギマギしてたけど、1ヶ月も経てばそんなことはほとんど、いや、全くなくなった。
「あ、そうだ!今日新しくできた店の服見に行かない?」
昼休みに話をしていた潤羽が言い出す。
「いいけど、なんかあるの?」
「そこで推しとコラボしてるんだぁ!」
ニコニコ笑ってる潤羽のことを見てると私も心がほっこりする。
「ふふ」
「なによぉ」
私が笑うと潤羽はぷくっとほっぺを膨らませた。
潤羽は女の子なのにかっこよくて優しいけど、推しのことになると女の子って感じになって、男子からしたらギャップ萌えらしい。
男子だけじゃなくても女子にも大人気だけど、潤羽には中学から付き合ってる彼氏、桜井 祐希(さくらい ゆうき)がいる。
私も祐希とは顔見知りで仲は良い方だと思うけど、高校が離れてからはまだ一回も会ってない。
時々潤羽と二人で買い物に行くことはあるみたいなことを聞いてるけど、最近祐希の話を控えるようになった潤羽にちょっと違和感を覚えてる。
中学生の頃は祐希とお出かけしたら惚気話を永遠と聞かされてたけど今はそんななんだよな。
「あ…ごめん、祐希くんから電話だから出てくるね」
ほら今だってせっかく大好きな彼氏からの電話なはずなのに潤羽はそんなに乗り気じゃない。
「うん、さきにお弁当食べてるね」
「ごめんね、ありがとう」
そういって急ぎ目で教室を出る潤羽を見送ってから、お弁当箱を開ける。
お弁当の中身はソーセージにミニトマト、色とりどりな具材が盛り付けられている。
「お前一人で食べてんの?」
頭上から聞こえた低い声にびっくりして勢いよく顔をあげるとニヤニヤした亜留が立ってる。
「うん、潤羽が来るまでね。亜留も一人?」
「まっさかぁ」
私の問いかけに首を横に振って親指で背中後ろにいる女の子二人と蘭くんを指差す。
「4人で食べてるのになんで私のとこ来たの?」
「お前が寂しそうだったから」
そう言ってウシシと笑って私の頭に手をぽんぽんって。
そんな亜留の行動にいつもドキドキしてばっかの私は亜留から目をそらす。
「あ、お前照れてんのかー?」
私が目をそらした瞬間、亜留は私の髪を崩さないようにワシャワシャするけど、ワシャワシャされたらグシャグシャになる。
普通はされたら怒るけど、亜留にされたら心臓が変な音を立てるから、心は素直だ。
「やめてよ、そういうんじゃないから」
なのに私は強がってこういう事を言っちゃう自分に嫌気が差す。
「なに怒ってんだよ?」
さっきまで笑って言ってたのが嘘のように真剣な声になる亜留。
「別に何もないよ」
亜留の顔を見ずに言ったから亜留がどんな顔をしてるのかわからないけど、すごく怒ってる気がする。
こんな些細なことで喧嘩になりたくないのに、心の隅で怒ってる自分がいる。
だって…私のことが好きって言っておいていつも私以外の女の子二人と楽しそうに話してるし。
私のことが本気で好きなら誘われても誘いを断るはずなのに…。
グッとスカートの裾を力強く握る。
「明愛、こっち向けよ」
「……」
「こっち向けって」
「もうなんなのよっ!」
叫んで席を勢いよく立ち上がると、クラスにいた全員が私に視線を向ける。
さっきまで賑わっていた教室とは裏腹にシンっと静まり返る。
「お前…」
気づいたら私の頬に一滴の雫が伝った。
あ…、私泣いてるんだ…。
「ごめ…っ」
私はもうそこにいたくなくて気づけば教室から飛び出していた。
「めい…!」
後ろから潤羽が叫んでたけど、私に声は聞こえなかった。
その後すぐ教室の扉が勢いよく空いた音がしたけど、追いかけてくる足音は全然聞こえない。
追いかけてくれるって心の中で期待した私がバカだったな…。
「はぁっ…、はぁっ…」
膝に手をついて周りを見渡すと屋上に居た。
無我夢中で走ってたから分からなかった。
「亜留のばかぁー!」
力いっぱい上を向いて叫ぶと次から次へと涙が溢れてくる。
「うぅ…っ、うわぁん…」
堪えきれなくなって嗚咽を漏らす。
こんなに泣いたのはいつぶりかな…、もう11年くらいかな。
そう思うと足がふらついて意識が遠くなっていく。
目が覚めると屋上の入口の壁によりかかってる私。
あれ、あったかい…。
肩に手を置くと上着がかかっている。
「やっと起きたか。お前ねぼすけだなぁ」
隣から呆れたような私の大好きな声が聞こえて隣を見ると、白い歯を見せて笑う亜留とバチッと目が合う。
「あ、亜留っ!?」
びっくりして思わず大声を上げてしまう。
「なんだよ大袈裟だな」
「だって今、えっと…」
パニックになる私を見てギャハハと大声を上げて笑う亜留。
「お前のこと追いかけて来たらお前屋上で寝そべってんだ」
再びギャハハと笑って頭を撫でてくれる。それがとても居心地が良くてまた瞼が重くなる。
「おいおい、お前まだ寝たりねーのかよ。しゃーねな」
亜留はそう言うと私の肩に手を置いて寄りかからせてくれる。
「いや、いいよ、私…」
「はいはい、文句言わない。寝んねーんころーりーよ」
昔から歌が下手な割に歌ってくれる亜留にクスクス笑ってから目を閉じる。
次に起きた時にはもう空はオレンジ色に染まりかけていた。
スマホを取り出そうとポケットに手を入れるけどスマホが見当たらない。
あ、そっか、昼休みに教室を飛び出したからスマホ教室だっけ……。
「うぅん…?」
隣を見ると私の肩に寄りかかって寝てる亜留の寝顔が間近にあり、びっくりしながらも昔のことを思い出していた。
昔もよく私の肩に寄りかかって寝てたっけな。
でも昔の亜留はほとんど居なくて、今私の隣にいるのは、大人っぽくなった亜留の姿。
黒髪に見えてた髪色は夕日の光で茶髪になっていて。
心地よい風が通り抜けるとストレートな髪はサラサラと揺れる。
「あーあ、もうこんなに大きくなっちゃって…」
ぼそっと呟いて亜留にしてもらっていたように亜留の頭をそっと撫でる。
「うん…?明愛?」
「あ、起こしちゃった?」
亜留は軽く伸びをする。
「帰ろっか?」
亜留が言う言葉にコクリと頷いて立ち上がってから、2人で階段を降りて、教室に向かう。
「もうHR終わっちゃってるね」
「だな」
教室に着くともう教室には誰もいなくて、私たち二人だけ。
「なぁ、明愛」
「なぁに?」
亜留に、名前を呼ばれて振り返ると亜留の真っ直ぐな瞳が私を捕らえる。
一瞬の出来事だった。
え…?今私なにされたの…?
自然と私は自分の唇を両手で抑える。
私は数秒放心状態になったけど、すぐ状況を理解する。
亜留とキスしちゃったんだ。
「あ、えっ…と、」
喉になにかが詰まったような感覚でうまく言葉が出せない。
「ごめん明愛、俺は充分待ったから…返事、教えて欲しい」
久しぶりに見た亜留の困り顔。
私を見つめる瞳は、小さくて弱い少年の目で、私は逸らせずに亜留と見つめ合う。
「…私ね、ここ1ヶ月間ずっーと考えてたんだ、告白の返事。」
「…うん」
「でも、今日やっとわかった」
「……」
「亜留が他の女の子と仲良くしてたりすると苦しくて苦しくて、しょうがなかった。」
私は深呼吸をしてから亜留を真っ直ぐに見つめる。
もう自分に嘘はつかない。
「私、亜留が大好きです。私で良かったらお願いします…」
その言葉と同時に私は頭を下げる。
私の告白の言葉はかすかに震えているのが自分でもわかった。
「こちらこそ」
その一言が私の耳に届くととめどなく涙が溢れ出してくる。
下げてた頭を上げて亜留の方を見ると亜留は頭を照れくさそうに掻いて二カッと白い歯を見せて笑う。
「なんでお前泣いてんだよ」
「だってぇ…」
また泣き出してしまう私を亜留は優しく抱きしめてくれる。
ドクンドクン…。
耳を澄ますと亜留の心臓の音がかすかに聞こえる。
「じゃあ、もう帰ろうか」
「…うん」
私と亜留は学校を出てから並んで歩いてると気づけば自然に手を繋いでいた。
亜留はギュッと強く、優しく手を握ってくれた。
亜留の手は私の手より大きくて私の手全体を包み込んでくれる。
こんな幸せな日々がいつまでも続きますように。
夕暮れに輝く一番星にそう願って。