一番星になった君へ
【明愛side】

「-19がここに移行して……」
数学の先生の声とチョークが黒板にこすれる音に耳を傾けながら時々亜留の方に目を移すとノートを開いているのにそこに突っ伏して寝ている亜留。腕の隙間から見える亜留の寝顔が見える。
バチッ…
急に瞑っていた亜留の目が開いて目が合うと亜留が目を逸らす。
寝顔見られて悔しいのかな?と思いながらくすくす笑う。
「おい滝、授業中によそ見すんなー」
「え?あ、はーい」
先生に指摘されて慌てて返事をするとクラスメイトからクスクス笑う声が私の耳に届く。
恥ずかしー……。
そんなこと思いながら亜留の方に目線だけを向けるとこっちも見てる亜留と目が再び合ってしまった。
さっきは亜留の方が先に目を逸らしたけど今回は私の方がそらすのが早かった。
結構付き合ってから経ってるのにこういうところだけは恥ずかしいんだよなぁ…。

昼休みになると潤羽が笑顔で駆け寄ってくる。
「ねぇ、めい聞いて!今度、祐希にデート誘われたのっ!だから、洋服買いに行くんだけど一緒に来てくれない?」
私の前で手を合わせて目を輝かせている潤羽はアイドル並みに可愛い。
「うん、いいよ」
私も笑顔で返してお弁当を出す。
今日は私が一から手作りしたお弁当。お母さんの手伝いなしで作ったから結構おかずが散らばっちゃってるけど、味付けはいい感じ。
「お、うまそ」
頭上から聞こえてきた声の方を見ると私のお弁当箱に手を伸ばす亜留。
ヒョイっ。
私のお弁当箱にあった卵焼きを一口で食べられてしまった。
今日1番出来が良かった卵焼きだったのにぃ…。
「なんだこれ!うまっ」
そう言って次は私の唐揚げに手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと!私のなんだけどー!」
「いいじゃん。」
私が慌てて止めるも身長の高い亜留には敵わない。
次から次へと私のお弁当のおかずが無くなっていく……。
「ちょっと食べ過ぎー!」
「これ止められねーわ」
「あはは、めいたちは仲良いね」
「もー!」
そんな他愛もない会話が私にとっては幸せ。潤羽はもう一度「あはは」と笑って窓の外を愛しそうに眺める。
「祐希のこと?」
「え、ああ、うん。もう何ヶ月も会ってないからさ」
笑顔を浮かべてる潤羽だけど、どこか寂しそうっていうのも私は見逃さなかった。
そりゃそうだよね、中学校まで一緒に登校してたのに、高校が離れてから一緒に登校することも減ったみたいだし。
「祐希って?」
隣で頭の上にクエスチョンマークを浮かべてる亜留は少しだけ不機嫌そうに言う。
これもしかして…ヤキモチ焼いてくれてるのかな?
そう思うと嬉しさがこみ上げて口元がニヤついてしまう。みんなは彼氏がヤキモチ焼くのはキモいって言うけど、なにげにヤキモチが一番うれしい。
「潤羽の彼氏だよ」
「なんだよ、びびったじゃん」
「亜留くんヤキモチかなぁ?」
「うるせ」
亜留は強がってるみたいだけど、顔から耳まで真っ赤。潤羽が聞いても否定しなかったから本当にヤキモチ焼いてたのを知って私も赤面。
「はいはい、アッツアツのお二人さーん?ここ教室ですよぉ」
「う、潤羽声大きいって!」
そういった頃にはもう遅くて教室にいるみんなから「ヒューヒュー」や「ラヴラヴー」などの冷やかしの声が上がり、更に私は赤面。
お昼休みってこういう事を話してるといきなり静まり返るんだよねぇ…。

午後の授業も終わり、今は帰りのHRの時間。昼休みにあったことを思い出すと頭がパンクしそうなくらい熱くなり、自分は亜留にべた惚れなんだなと改めて思った。
「めいー、帰ろ〜」
「明愛、帰るぞ」
HRが終わると笑顔の潤羽といつも通りの亜留が口を揃えて来た。
「ごめん、亜留。今日は潤羽と買い物に行くから先に帰っていいよ」
「は?何いってんの?俺も買い物に付き合わされるんだわ」
眉間にしわを寄せて言う亜留に驚いて潤羽の方を見るとニコニコしているだけ。
「ごめんね、めい」
顔の前で手を合わせてるけど、顔は満面の笑み。
「別にいいよ、じゃあ行こっか」
三人で教室を出て最寄り駅近くの大きなショッピングモールに向かう。
今の時期のショッピングモールのロビーには大きなクリスマスツリーがある。
噂によれば、クリスマスツリーの下で告白したら一生その人と幸せになれるって聞いた事があるけど、付き合ってる場合に『好き』って言っても叶うのかな?…って、私ったらいつからこんなに乙女になってんのよっ!
自分の気持ちに自分で突っ込み、バカみたいでひとりでなぜか笑ってしまう。
「何一人で笑ってんの?」
隣にいた潤羽にそう指摘されて慌てて首を横に振る。
「なんでもない」
ニコッと笑ってみせると亜留にフッと鼻で笑われた。
「あー!今鼻で笑ったでしょ!」
「なんの事ー?」
「とぼけないでよっ」
バシッと強めに背中を叩くと「いってぇ」と笑う。
「もう今日は私の買い物の付き合いなんだからケンカしないでよ?」
「「はーい」」
亜留と声がハモってお互い見つめ合う。
「なんだ、あんたらラブラブじゃん」
笑いながら言う潤羽の言葉に顔が熱い。
「2人とも顔真っ赤じゃん。照れてるの?」
「「照れてないっ!」」
「はいはい、もう行くよー」
こうやって友達と彼氏と一緒に買い物に行くことが小さい頃からちょっとしたお願い事だった。いつまでもいつまでもこんな楽しくいられたらいいのにな。

ショッピングモールに着き、一通り買い物を終え、もう空は星がでる時間帯になっている。
今はフードコートで潤羽と亜留と夜ご飯。
「んー!美味しー!」
「めいはいつも美味しそうに食べるよねー、私も可愛く食べたいのになぁ」
「潤羽はそのままでも可愛いから大丈夫だよ!ねっ、亜留?」
隣で食べてる亜留に、声をかけると下を向いたまま口を開く。
「俺は明愛が好きだからなんとも言えない」
サラッと亜留が言う一言に一気に顔が熱くなる。
「……」
「……」
亜留の言葉にビックリして私と潤羽は無言になる。
「も、もう亜留ったら急に何言っての!」
空気が気まづくて照れ隠しに似た強がりが出る。
「そうだよ亜留!ちょっとそれは私に失礼だって
!」
あははと笑って口いっぱいに頬張る潤羽。
「潤羽…?」
突然後ろから聞き覚えのある懐かしい声が聞こえ、慌てて後ろを振り返る。
「祐希?」
後ろには潤羽の彼氏の祐希がいた。
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