転生姫は国の外に嫁ぎたい〜だって花の国は花粉症には厳しすぎるのよ〜【WEB版】
――私の名前は フィエラシーラ・花真。
前世は花粉症のせいで死んだのに、転生先は花の国『花真』。
私はその花真王国の第一王女だ。
杉に囲まれた城。まるで呪われているかのように秒速で花粉症を発症。
さらに、猫・犬アレルギーも発症して毎日涙と鼻水と微熱による汗で枕を濡らす日々。
とてもこの国で生きていけない、と私自身も両親も結論を出した結果、隣国の大国サービールに留学させてもらい嫁ぎ先を探すことになった。
それが十年前の話。
サービール王国王都で過ごすようになり十年目の今日、国立学園高等部の入学式だ。
「フィエラ様、おはようございます」
「おはようございます、ユーフィア」
「いよいよ高等部入学ですわね。あ、これが頼まれていた、今年から入学してきた他国の王侯貴族のリストです」
「あ、ありがとうございま…………ユーフィア? 赤線で名前がすべて消されておりますが……?」
「だってぇ! フィエラにはずっと我が国にいてほしいんですものぉ! ねえ、やっぱり他国に嫁ぐのは考え直してくださらない!? わたくしのお兄さまのどれかと結婚すればいいではありませんかぁ!」
「どれか、って……皆さん婚約者がおられるでしょうが!」
「やだやだ、ずっとフィエラと一緒にいたいです!」
子の奇麗な薄いピンク色の長い髪と淡い緑色の髪の美少女はユーフィア・サービール第一王女。
私はこの国に引っ越してきてから比較的すぐに、この国の第一王女ユーフィアと仲良くなった。
可愛らしく我儘を言っているが、これでも国内で『救国の聖女』と呼ばれている、結構すごい女の子。
なんでも、現王陛下は正妃、側妃合わせて五人もいるのに女の子は初めて。
それが衝撃だったのか、王室あるあるのドロドロした後宮と後宮を持て余していた国王の関係は一変。
国王陛下は元より、正妃様を疎んでバチバチだった側妃四人も正妃様の娘のユーフィア様にメロメロ化。
母親たちの様子から王位継承権を争い、正妃様の息子で王太子の長男とバチバチだったその息子の王子たちも妹至上主義のブラコンにジョブチェンジ。
王城の空気は、手の平を返したように『ユーフィアがすべての中心』になった。
つまり国の中心部と王族を救った『救国の聖女』と呼ばれているのはあながち間違ってはいない。
おかげで城仕えの貴族や使用人からも感謝され、周囲から甘やかされまくって我儘放題になりつつあったユーフィア。
しかし同い年の私とお茶会で出会い、私の事情を聞くと段々と我儘は鳴りを潜め、初等部に入学後も「わたくしもフィエラシーラ様と一緒に勉強したい」と一緒に通ってくれ、今や誰がどう見ても完璧な淑女となった。
美女と歩くのはちょっとした優越感であり、こんな女性の隣を歩くのにふさわしい女性にならなければというプレッシャーでもある。
そんな感じで、私は今、一国の王女としてそれなりに相応しい振る舞いができるようになっている……と、思う。
体質のせいで実家に帰れない私は、花粉のほぼない国の輿入れを希望している。
南のフラーシュ王国やコルアビア王国、アルサビス新興国あたりがいいんじゃないかなぁ、と目星をつけているので、もしもこの三国やその近辺の王侯貴族が留学してきたら、その人を紹介してもらえないかなと、ユーフィアに相談したらこれですよ!
なのに、どうしてこんなことになっているのか!
「はあ、仕方ない。自分で探しますから入学式に向かいましょう」
「くっ……この国で結婚すればいいじゃないですかー!」
「この国でも花粉症の症状が出るんですよー!」
特に春。スギ花粉は強力すぎる。
悲しいかな、故郷花真王国から風で流れてくるみたいなのだ。
もちろん花真王国にいるより体は格段に楽。
春以外はあまり熱が出なくなった。
サービール王国は年始めに年始を祝う祝祭を二週間かけて開催。
その月末に、学園の入学式が行われる。
だから、今の時期はまだ体が楽。
そして相変わらず入学式が立食パーティーな王侯貴族形式は慣れないわね……。
まあ、夜会みたいに名前を高らかに呼ばれて入城するわけじゃないから、そこはマシかも。
まあ! ユーフィアが隣にいる時点で注目の的なんだけれどね!!
「まあ、ご覧になって。ユーフィア様とフィエラシーラ様よ。相変わらずお美しい」
「本当……まさしく淑女の中の淑女ね。高等部の制服もお似合い……え? 制服? なんで?」
「やだ、本当……!? どうしてドレスをお召ではありませんの……!?」
お茶会に着てくるようなカジュアルドレスで群がっているご令嬢たちが、私たちの来ている物に戸惑っている。
それもそうだろう、サービール王国王立学園に通う女生徒は婚約者探しがメイン。
そのために着飾り、また婚約者のいる女生徒は婚約者に美しい自分を見せるためだったり、婚約者から贈られたカジュアルドレスを見せびらかしてマウントを取り合うために着用してくる。
制服を着るのは貧乏な貴族や留学生、平民からの特待生。
だから差別され、馬鹿にされるのだ。
でも、それでは留学してくる他国の王侯貴族からの外聞が悪い。
私は留学生なので、制服を着ることにしていたのだが初等部の時点で高等部がそんな様子なのを耳にしていたのでちょっと怖かった。
いや、制服は可愛いのよ?
白衣のような長い裾の上着に、赤いチェック柄の大きなリボンと膝下スカート。
折り返しが同じ柄のブーツに、小物が入れられるポシェット。
いかにもファンタジー世界の制服っていう感じで初めて見た時はワクワクしたものよ。
前世はとっくに卒業していた、女子高生の制服。
そんなのウキウキしないわけがない!
……でもやっぱりいびられるのは怖い。
相談したらユーフィアは「フィエラが制服を着るならわたくしも着る。フィエラとお揃いなんて最高」と、ウキウキで制服を着用してくれることになった。
……絶対に語尾にハートマークがついていた。
まあ、そういうわけでユーフィアと私は制服で登校しております。
ざわざわされているのは、初等部の時から私がこの国にいることを知っているご令嬢たちですら私たちが制服を着るとは思わなかったのかもしれない。
「あ、あの、おはようございます! ユーフィア様、フィエラシーラ様。あの、なぜ制服をお召なのですか!?」
「なぜって……私は留学生ですから」
「で、ですが――」
「そうですわ。それに、サービール王国の者でも制服は着用してもいいのですわよ? わたくし、フィエラと同じ制服を着られて嬉しい」
と、私の腕に抱きついてくるユーフィア。
その愛らしさに私もニコっと頬が緩む。
まあ、婚活はするけどね!
目でそう言ったのがバレたのか、ユーフィアの目からは「キー!」という不満げな色が滲む。
十年の付き合いだからこそ、笑顔の中でこんなやり取りができるのだ。