クレジット人間-遊園地から脱出せよ!-
「ちょっと、待って」




智道はそう言うとベルトコンベアーの下をくぐってこちら側へと移動してきた。

棚からハサミを取り出すと、また元の場所へ戻った。

ハサミを使って大橋くんのシャツを切っていく。

ジャキジャキという音が室内にうるさいほど響く。




「よし、これでいい」




シャツを切り終えた智道が深呼吸を繰り返す。




「ありがとう」




私は小さな声で礼を言った。

なにもせずにただ見ているだけだったら、さすがに乱暴な言葉を吐いてしまっていたかもしれない。

私はしっかりとメスを握り直す。

人間の心臓はどのあたりにあるんだろう?

やっぱり、胸の辺かな?

手袋をつけた手で大橋くんの胸にふれる。

その体は想像以上に冷たくて思わず手を引っ込めてしまう。

腐らないように保存されていたんだから、当然のことだと自分に言い聞かせて再び手をのばす。
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