僕はまだ此処にいる
「高峯李桜くんか……。貴方の名前にも桜が入ってるのね」
「だから、なんだって言うの?」
「ううん、ただ綺麗な名前だなぁと思って。私、貴方の名前好きよ」
「あっそ」
名前を綺麗なんて言われるのは初めてだった。なんだか恥ずかしい。
僕はこの名前が嫌いだった。桜みたいに綺麗でもないし、なにより桜が嫌いだった。
桜は普通に綺麗だと思う。けど、咲くだけ咲いて、あとは散るだけ。いくら綺麗だろうと、桜が美しく輝くのは一瞬だけ。
僕はそんな風にはなりたくない。美しくなくてもいいから、咲いたならそのままでいたい。
散りたくない。散って終わってしまうなんて嫌だ。
だから、この名前が嫌いだった。
そのはずなのに、君に名前が好きと言われたその日から、段々自分の名前が好きになっていった。
それからも君は僕に話しかけてきた。僕がいくら冷たくあしらっても。
僕以外にもいい人はいるだろうに、僕にばかり構ってくる。
君が悪い人じゃないことはすぐに分かった。けど、僕は君になかなか素直になることが出来なくて、変に意地をはってしまっていた。