その恋は解釈違いにつき、お断りします〜推しの王子が私に求婚!? 貴方にはもっと相応しいお方がいます!〜

1.陰ながら

 どんなに貴方が遠く離れていても、私はすぐに貴方を見つける。他の誰より、私が一番早く見つけられるわ。

「スペンス王子ー!」

 黄色い歓声が上がったと思うと、彼は小さく手を振った。

 ローアル王国は小さな国だ。戦とも無縁で、のんびりと生活できる。それもローアル王国の先先代の国王が平和宣言をしたからだ。限られた国とだけ交流し、基本的には自給自足。他国の華やかさと比べられることも多いけれど、平和であることより価値があるのだろうか。

 そんな小さな国だから、王族もフレンドリーなのかもしれない。他国でこんな風に軽々しく王子の名前を呼んだら打首にされると聞いた。だからといって、王族のことを軽く見ているわけではない。みんなしっかりと敬意を持っている。愛されているのだ、スペンス・ヴァーレイ王子は。

 ブロンドの髪を丁寧に上げていると、意志の強そうな眉と、宝石のような青色の瞳がより目立つ。黙っていると、人形のように整っているせいで冷酷な王子のような印象にも見えてしまう。これはこれで好きだけど、薄い唇を大きく開けて笑う、少年のような笑顔も好きだ。天使のようなギャップに国中の女性が翻弄されている。もちろん私も例外ではない。愛されているのだ、スペンス・ヴァーレイ王子は。

 馬車を少し止めて、窓から少しだけ顔を出すと、ファンの子に優しい声で話し掛けている。

「みんな、まだ寒いから暖かくしてるんだよ」

 公爵令嬢フローレア・アンバーウッドは、さっと物陰に隠れた。

 なぜなら彼は、友人の一人であるフローレアが自分の熱烈なファンであることを知らない。

 卒倒しそうな女性たちを横目に見ながら、フローレアも胸を押さえて溜息をついた。

 それは、この状況を憂いているのではない。

 "贈り物"が多過ぎて脳と体が追い付かない。

「お顔が……お顔が今日も良い……!」
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