その恋は解釈違いにつき、お断りします〜推しの王子が私に求婚!? 貴方にはもっと相応しいお方がいます!〜

10.幸せの鐘

「フローレア」

 翌日、フローレアはあの日のことをもう一度スペンスと話そうと、彼の元へと向かおうとしていた。

 扉を開けると、偶然にもスペンスの姿があった。

 彼の言葉を思い出すと、頬がみるみると紅潮していくのが分かった。顔が熱いわ、恥ずかしい。

 今頃真っ赤な林檎のようになっているに違いない。フローレアはすっかり熱を持った頬をパタパタと手で仰いだ。

「フローレア、君に話があってきたんだ」

 いつになく真面目なスペンスは、相変わらず絵画の中の天使のように美しかった。

 手が届くはずないと思っていた。だから、彼への気持ちは「憧れ」だと思うことにした。

 いつか王子様と結ばれる、なんてことは御伽噺の世界。スペンスはいずれ一国を担う王子だ。そんな彼を、"友人"として支えられることが嬉しい。これからもずっと、変わらないつもりだった。
 
「スペンス王子、私……」

「待って、私の方から先に言わせて欲しい」

 スペンスはその場に片膝をついた。

「フローレア、君が好きだ。私と結婚してほしい」

 手には、ヴァーレイ家の紋章が入った小さな箱を持っていた。スペンスがその箱をそっと開けると、代々伝わるという指輪が入っていた。
 以前、スペンスが見せてくれたことがある。大切な人に渡すものだと言っていた。

「君に本気にしてもらえなかったのは、私の不甲斐なさの所為だろう。返事はいくらでも待つから」

ーーこんな日が来るなんて。

 スペンスはフローレアの手を優しく取ると、その左手の薬指に指輪を嵌めてくれた。大粒のダイヤモンドがキラキラと輝いている。

「私の隣にいてほしい。永遠に」

「ええ、もちろん。光栄です……スペンス王子」

 フローレアの目尻には、感激のあまり涙が浮かんでいた。スペンスはそれを、壊れ物にでも触れるようにそっと拭ってくれる。
 
「あまりにも嬉しくて、夢を見ているようだわ」

 ほっそりと華奢だと思っていたスペンスの腕の中は、想像していたよりもずっと、暖かくて逞しかった。包み込まれている安心感に、フローレアの目から、また一粒涙が溢れた。

「私もだよ、フローレア」

 スペンスはフローレア頬を慈しむように触れると、唇がそっと触れるくらいの短いキスをした。顔を見合わせて照れたように笑う。

 幼い頃から何も変わらないことが幸せだと思っていた。これからは、新たな愛を育てていく。

 目を閉じて、今度はしっかりと唇を重ねる。このキスが終わったら、私たちの大切な人たちに報告に行こう。きっと安心したように笑って、喜んでくれる。

 穏やかな風が吹いて、スズランの花が幸せの鐘を鳴らすように揺れていた。
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