その恋は解釈違いにつき、お断りします〜推しの王子が私に求婚!? 貴方にはもっと相応しいお方がいます!〜

6.相談

「マルセル、話があるんだ」

 膝の上でしっかりと手を組んだスペンスは、そう言ってしばらく黙り込んでしまった。神妙な面持ちで思い詰めているようだ。

「どうしたんだ、改まって」

 マルセルが心配になって顔を覗き込むと、彼はようやく重い口を開いた。

「……マルセルはフローレアのことを、どう思う?」

「どう……?」

 言葉に詰まる。フローレアのことをどう思うのか。

 彼女は可愛いらしい顔をしている。年齢より若く見えることを本人としては気にしているようだが、そこが愛嬌があると思う。

 性格は……優しくて、探究心がある。特にスペンスのことに関しては、研究者のように掘り進めている。昔から熱しやすい所があるからな。妖しい日記をつけたりもしているが、ヴァーレイ家の紋章を縫ったり可愛らしい所もある。

 総じて彼女は可愛いらしい、彼の求めてる答えはこれで合っているのだろうか。

「私はフローレアのことが好きだ。結婚したいと思っている」

 マルセルが答えに困っている間に、スペンスの方が先に口を開いた。

「ああ、それは知っていたよ」

 それはもう、何年も前に気付いていた。フローレアへ向けられる視線が他とは違うし、いつも彼女を目で追っていた。
  
「……そうなのか?」

 スペンスは心底驚いているようだった。隠す気なんてないのかと思っていたが、無自覚だったことにマルセルも驚いてしまった。

「見ていればわかるよ」

 微笑ましくて思わず頬が緩んだ。

「お前はそれでいいのか?」

「ああ、親友を取られるってか? 子どもじゃないんだ。それに、大好きな親友同士が一緒になるなんて嬉しいことだ」

 意外と子どもっぽいこと心配するんだな、とマルセルが笑うと、スペンスは首を横に振った。

「私に遠慮するな、本当のことを話して欲しい。マルセルもフローレアのことを好きなのか……お前と恋敵になるのは厳しい」

 お前には到底、敵わないからな。そう言って笑う彼の目は本気だった。とんでもない勘違いだ。

「何を言ってるんだ。フローレアはただの友だちだよ」

「そうか……だが、フローレアはどうだ? 分かっているが、思いは伝えたいと考えている。その決心は変わらない、許して欲しい。私は、どちらも失いたくないんだ」

 スペンスは友情が壊れるのではないかと憂いているのだろう。

「フローレアも俺のことなど兄弟のように思っているよ。あいつは昔から、スペンス王子に夢中なんだ」

「まさか」

 スペンス王子は全く信用していないようだった。

「今だってヴァーレイ家のスズランの刺繍をしている。お前の"概念"だからって……」

「……? いや、きっと愛国心からだろう」 

「違うんだ、あいつは……」

 どうにかして、フローレアの情熱をわかって欲しい。だが、彼女からほとんどのことを口止めされている。


『私は、"推し"とどうこうしたいなんて烏滸がましいことなんて考えていないの。……貴方とマルセルが笑って過ごせている世界が幸せなの』


 それがフローレアの口癖だった、自分はその世界の壁でありたい。そう言っていた。
 
「マルセル、ありがとう」

 スペンスは、マルセルの堅い友情に胸を打たれたようだった。

 熱の籠った手で、マルセルの手をしっかりと握ると、まっすぐに目を見つめてにっこりの微笑んだ。

 冬の冷たい氷さえ一瞬で溶かしてしまうほどの、暖かくて美しい笑顔だった。
< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop