不遇な財閥御曹司は、政略妻に一途な愛を捧げたい。
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一週間前は、ずっと独身でいいかと考えていたのにもう白無垢を着ているなんて誰が想像しただろうか。
「……綺麗ね、藍南」
「ありがとう、お母様」
元婚約者と結婚式の準備をしていたから白無垢などの衣装は困らなかったが、まだ気持ちが追いついていない。
控え室の鏡の前には絢爛慶びの紅白で彩られた吉祥華のある白無垢を着て大きな袋のような帽子の綿帽子を被っている。メイクもしてもらったから顔も華やかに見える。
「そういえば、お相手の方ってどんな方なの?」
「立派な方だって聞いたわよ、何しろご友人の方と大学時代に起業されたらしいんだけど実家を継ぐために会社は友人に託して来たと聞いたわ」
「そうなんですね」
お母様の情報は合ってはいるけれど……ところどころ、違うと思う。まず、お父様が旧財閥家との縁談を持って来てすぐに調べた。
お相手には失礼だがお父様の『お金はなくて今にも倒産しそうだけど、旧財閥家という箔がある』とおっしゃっていたし、知っていないとダメなことがあるかもしれないと思って調査を依頼して……。
確かに立派なお方で大学生で起業したのは合ってるけど、その方は実子ではなく私生児であること。当主の実子である次男が生まれたからお払い箱で追い出されたけど、次男が大病を患ったために呼び出された……らしい。
彼は境遇はとても辛いものだった。