不遇な財閥御曹司は、政略妻に一途な愛を捧げたい。



「俺がお皿洗うから、お風呂入って来なよ」

「本当? ありがとう、じゃあそうさせてもらいます」


 彼女がお風呂に入り出ると俺が入る。お風呂に入ってから早川と話したことを言おうとリビングのソファに隣に座り、話があることを告げれば体を俺の方に向けて「どうしたんですか?」と目を合わせて言われた。


「実は――」


 最初には簡単に出自を話したが、もっと詳細に話した。他人から俺の話を知ってほしくなかった。
  


「そうなんですか。でも、私、永眞さんのこと……事情、知ってました。父からではなく、私が調べました。結婚前に」

「……え」

「本当にすみません。勝手に、こんな、気持ち悪いですよね。でも、あの時は知らないといけない気がして……なので、永眞さんが私生児であることも知ってます。伊能家が赤字続きで危ないことも、永眞さんが大学時代に立ち上げた会社を辞めて伊能家に戻されたことも全て知ってました。お義父様が、名家ではない岡藤の娘を嫁にもらいたいと言ったのも岡藤の財産に目を付けたから。それにちょうど良く結婚が白紙になった私がいた」


 藍南ちゃんは、俺のことも伊能家のことも全て知って縁談を受けたのか。なんでそんな……


「そんなに不思議そうに見ないでください。私は、令嬢なのに結婚間近の恋人に浮気されて捨てられた身。そんなお金だけ持っている私は結婚なんてできないだろうなって思ってたんです。そしたら、この縁談。父も身分欲しさに受け入れたものですからお互い様です。でも、なんで急に?」

「……異母兄()が不穏な動きをしている」

「え、お義兄様ですか? 療養中では?」

「そうなんだが、あの人は自分ではなく人に動かせる。自分は支持するだけの人だ。あの人は、俺の存在自体が邪魔だと思っている。だから、藍南ちゃんを狙うと思う、藍南ちゃんは俺の弱点になる存在だから」


 絶対に、絶対に藍南ちゃんのことは守らなくては。だって、約束をしたから。


『……君の事情は知っている。だけど、大事な娘を君にやるんだ。幸せにしてやってくれ』
『はい、必ず。必ず幸せにします。守ります』


 だから俺は、守らないといけない。彼女も、彼女のご両親とした約束を。
 

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