不遇な財閥御曹司は、政略妻に一途な愛を捧げたい。



「父さんは、ずっとあの母子(おやこ)を想ってた。ずっと、永眞を気にしていたし母さんよりもあの女のことを気にしていて……どこで仕入れたのか、有名大学附属の高校に首席合格した時も首席で卒業した時も国立大に合格した時も、会社を起業した時も……いっつもいっつもあいつのことばっかりだった! 俺は、ただ伊能家の嫡男ってだけの存在で。病気だって大したことない、なのに、あいつを呼び寄せた。あいつを次期跡取りにするつもりで!」


 彼は、今までの鬱憤を晴らすように叫ぶ。だけど、それは駄々をこねた幼い男の子に見えた。ただ、自分を見てほしくて頑張った男の子。会ったこともない永眞さんに嫉妬してしまっていただけ……でも、だからって、こんなことしてはいけない。

 だってこれは、立派な犯罪だ。



< 56 / 64 >

この作品をシェア

pagetop