最強騎士様は素直じゃないけど、どうやら私は溺愛されているようです
12.恋人同士
「さっきの店にもう一度戻りたいわ」
大人しそうな顔をして、ずけずけと物を言う。さすがサマーランド公爵の娘だ、とリアムは溜息を吐いた。
彼女の名前はカミラ。今日の仕事は町へ出たいというカミラの護衛だ。一人で外出したいという彼女に、どうしても護衛をつけたい父親が、リアムならどうだと提案した結果だ。
「仰せのままに、カミラ様」
そう言うと、彼女は満足そうに笑った。
「やっぱりいい男と歩く方が楽しいわ。お父様が私を任せるんだから、貴方のことはやっぱりただの噂なのね」
「噂?」
「奥さんを何人も寝取ったって」
「ああ、根も葉も無い噂です。でもカミラ様、レディがそんなお言葉を……」
「あら、他にどんな言い方があるの? 言ってみて」
「いいえ、なんでもございません」
形の良い唇を赤く塗って、悪戯っぽく笑う。絡み付くようにリアムの腕に絡んだ。薔薇のいい香りがする。
ーー仲の良い友人同士という設定で歩きましょう。
彼女はそう提案した。護衛を引き連れて歩いていると思われたくないそうだ。
年頃の女の子特有の悩みなのかもしれない。同じような仕事は前にもしたことがある。その子はここまでパワフルな子ではなかったけれど。
すれ違う人たちが二人を振り返って見る。自分たちはどう見えているのだろうか。さっさと済ませて帰りたい。
「ねえ、リアムは恋人はいるの?」
カミラは興味津々でリアムの顔を覗き込んだ。
「……ずっと想っている人がいます」
「素敵ね、どんな人?」
目を輝かせて、聞かせてとせがむ。
「優しくて心が綺麗な人です。少しおっちょこちょいだけど……」
「可愛らしい人なのね、私とは正反対」
「ああ、そうかもしれません」
ふっと思い出し笑いするのを、カミラは見逃さなかった。
「何よ、正直なのね」
戻った雑貨屋で、彼女は楽しそうに商品を眺めている。
「こんなにゆったり店を回れるのは久し振り……いいえ、初めてかもしれないわ」
「ねえ、リアムはいつもはどんなデートをしてるの?」
「私は……」
リアムは少し考え込むように言葉を切った。
「まだ彼女とデートをしてないのです」
「まあ、どうして?」
カミラは目を丸くした。
「……お互いにいそがしくて」
「それは言い訳ね」
本当は今日初デートのつもりだったんだ、と心の中で文句を言う。それを君のお父さんがどうしても、と言うから。
だが、それこそ本当に言い訳だ。そもそも意気地がないから誘えなかったのだから。
「ねえ、可愛いカードを贈ったら喜ぶんじゃない?」
流行ってるのよ、とカミラは煌びやかなカードを何枚か手に取ってリアムに渡す。
すっかり、人の恋愛事情にちょっかいを出す方が楽しくなってしまったようだった。
「カードねえ……」
「これなんて可愛いわ、ハートがたくさんあって花束みたい」
「……なんて書いたらいいでしょう」
「貴方、意外と初心なのね」
カミラは吹き出した。お父様から聞いた話だと、女性の扱いに慣れてるって言うから。そう言って無邪気に笑った。
「いつも思ってることを書けば良いのよ。口に出せなくても、文字にならできるでしょう。可愛いとか、愛してるとか」
ーー思っていること、か。
伝えたいことは山ほどあるのに、顔を見た途端に言えなくなってしまう。気の利いた言葉を用意しても何の意味もない。文字にして伝えると言うのも、悪くないかもしれない。
薄い桃色の地にカラフルなハートがたくさん描かれたカードはコレットも気に入りそうだ。同じ年頃のカミラが勧めてくれるものなら信頼できる。
「では、これを贈ってみます。ありがとうございます」
「きっと喜ぶと思うわ」
大人しそうな顔をして、ずけずけと物を言う。さすがサマーランド公爵の娘だ、とリアムは溜息を吐いた。
彼女の名前はカミラ。今日の仕事は町へ出たいというカミラの護衛だ。一人で外出したいという彼女に、どうしても護衛をつけたい父親が、リアムならどうだと提案した結果だ。
「仰せのままに、カミラ様」
そう言うと、彼女は満足そうに笑った。
「やっぱりいい男と歩く方が楽しいわ。お父様が私を任せるんだから、貴方のことはやっぱりただの噂なのね」
「噂?」
「奥さんを何人も寝取ったって」
「ああ、根も葉も無い噂です。でもカミラ様、レディがそんなお言葉を……」
「あら、他にどんな言い方があるの? 言ってみて」
「いいえ、なんでもございません」
形の良い唇を赤く塗って、悪戯っぽく笑う。絡み付くようにリアムの腕に絡んだ。薔薇のいい香りがする。
ーー仲の良い友人同士という設定で歩きましょう。
彼女はそう提案した。護衛を引き連れて歩いていると思われたくないそうだ。
年頃の女の子特有の悩みなのかもしれない。同じような仕事は前にもしたことがある。その子はここまでパワフルな子ではなかったけれど。
すれ違う人たちが二人を振り返って見る。自分たちはどう見えているのだろうか。さっさと済ませて帰りたい。
「ねえ、リアムは恋人はいるの?」
カミラは興味津々でリアムの顔を覗き込んだ。
「……ずっと想っている人がいます」
「素敵ね、どんな人?」
目を輝かせて、聞かせてとせがむ。
「優しくて心が綺麗な人です。少しおっちょこちょいだけど……」
「可愛らしい人なのね、私とは正反対」
「ああ、そうかもしれません」
ふっと思い出し笑いするのを、カミラは見逃さなかった。
「何よ、正直なのね」
戻った雑貨屋で、彼女は楽しそうに商品を眺めている。
「こんなにゆったり店を回れるのは久し振り……いいえ、初めてかもしれないわ」
「ねえ、リアムはいつもはどんなデートをしてるの?」
「私は……」
リアムは少し考え込むように言葉を切った。
「まだ彼女とデートをしてないのです」
「まあ、どうして?」
カミラは目を丸くした。
「……お互いにいそがしくて」
「それは言い訳ね」
本当は今日初デートのつもりだったんだ、と心の中で文句を言う。それを君のお父さんがどうしても、と言うから。
だが、それこそ本当に言い訳だ。そもそも意気地がないから誘えなかったのだから。
「ねえ、可愛いカードを贈ったら喜ぶんじゃない?」
流行ってるのよ、とカミラは煌びやかなカードを何枚か手に取ってリアムに渡す。
すっかり、人の恋愛事情にちょっかいを出す方が楽しくなってしまったようだった。
「カードねえ……」
「これなんて可愛いわ、ハートがたくさんあって花束みたい」
「……なんて書いたらいいでしょう」
「貴方、意外と初心なのね」
カミラは吹き出した。お父様から聞いた話だと、女性の扱いに慣れてるって言うから。そう言って無邪気に笑った。
「いつも思ってることを書けば良いのよ。口に出せなくても、文字にならできるでしょう。可愛いとか、愛してるとか」
ーー思っていること、か。
伝えたいことは山ほどあるのに、顔を見た途端に言えなくなってしまう。気の利いた言葉を用意しても何の意味もない。文字にして伝えると言うのも、悪くないかもしれない。
薄い桃色の地にカラフルなハートがたくさん描かれたカードはコレットも気に入りそうだ。同じ年頃のカミラが勧めてくれるものなら信頼できる。
「では、これを贈ってみます。ありがとうございます」
「きっと喜ぶと思うわ」