最強騎士様は素直じゃないけど、どうやら私は溺愛されているようです
4.火傷
また来る、と言ったリアムはそれから何度もパン屋を訪れた。毎回かなりの量を買ってくれるので、アベラは喜んでいた。
「まさか、あのリアム様が妹と……なんてね」
「アベラ姉さんってば、」
「いいじゃない。リアム様に見初められるなんてすごいことよ。さすが私の妹、もちろん結婚するでしょう」
「わからないわ。確かに素敵で憧れていたけど、話してみたら少し……」
もっと紳士的な男性かと思ってたのよ、とは自分勝手過ぎて言えなかった。
小さな花を丁寧に差し出して、優しく微笑んでくれるような人。まさかあんなにぶっきらぼうな人だとは思わなかった。
「あら、いらっしゃい」
噂をすれば、と付け加えてアベラはにやっと笑った。
「いらっしゃいませ、リアム様」
「リアム"様"はやめてくれ、リアムでいい」
「わかりました、リアム」
自分で呼べと言ったくせに、リアムはふいっとコレットから視線を逸らした。
「……今日も新しいパンを作ったんだって? さっき店の外で女の子たちが話してた」
「耳が早いのねぇ、ビーフシチューをパンの中に入れてこんがり焼いてみたの。今二回目が焼き上がるから、出来立てを食べて行って、義理の姉からのサービスよ」
「ありがとう」
リアムは"義理の姉"という言葉に少し頬を染めて、アベルに小さく礼を言った。
パンの焼き上がりを知らせるベルが鳴って、コレットは石窯の様子を見ていた。
「あっつ……!」
手袋を嵌めるのを忘れて、石窯の中の天板に触れてしまった。
「コレット!」
リアムは慌てたように駆け寄ると、素早くコレットの手を引いて流水に当てた。
「……少し赤くなってる」
リアムはコレットの手を握ったまま、確かめるようにその手を撫でている。その横顔は本当に必死そうだった。
「ありがとう、もう大丈夫」
「全く、君はいつもそそっかしくて放っておけない」
リアムはため息をついた。
「いつもはこんな風じゃありません」
「どうかな、前はジャムパンにジャムを入れ忘れたし、一本で売るはずのバゲットを片っ端から輪切りにしてアベラに叱られてただろう」
「……見てたの。あれは全てガーリックトーストになったわ」
「知ってる。店に入った瞬間ガーリックの香りがしていたから。しばらくあの匂いが取れなかったよな」
ふっと、リアムはその日のことを思い出したように笑った。あの日のコレットは側から見ても焦っていただろう。
アベラが言葉巧みに誘導して売り切ったが、売れなかったらと思うと生きた心地がしなかった。
「……これだけ冷やしたらもう大丈夫だろう。赤みも引いたから、痕も残らないと思う。それでも薬は塗っておけ、大したことなくて良かった」
リアムはコレットの小さな手を優しく撫でた。
「コレット、どれだけそそっかしくてもいいから、怪我だけはしないでくれ」
相変わらず不遜な物言いではあるけど、心の底から心配してくれたようだった。
「……ありがとう、リアム」
「まさか、あのリアム様が妹と……なんてね」
「アベラ姉さんってば、」
「いいじゃない。リアム様に見初められるなんてすごいことよ。さすが私の妹、もちろん結婚するでしょう」
「わからないわ。確かに素敵で憧れていたけど、話してみたら少し……」
もっと紳士的な男性かと思ってたのよ、とは自分勝手過ぎて言えなかった。
小さな花を丁寧に差し出して、優しく微笑んでくれるような人。まさかあんなにぶっきらぼうな人だとは思わなかった。
「あら、いらっしゃい」
噂をすれば、と付け加えてアベラはにやっと笑った。
「いらっしゃいませ、リアム様」
「リアム"様"はやめてくれ、リアムでいい」
「わかりました、リアム」
自分で呼べと言ったくせに、リアムはふいっとコレットから視線を逸らした。
「……今日も新しいパンを作ったんだって? さっき店の外で女の子たちが話してた」
「耳が早いのねぇ、ビーフシチューをパンの中に入れてこんがり焼いてみたの。今二回目が焼き上がるから、出来立てを食べて行って、義理の姉からのサービスよ」
「ありがとう」
リアムは"義理の姉"という言葉に少し頬を染めて、アベルに小さく礼を言った。
パンの焼き上がりを知らせるベルが鳴って、コレットは石窯の様子を見ていた。
「あっつ……!」
手袋を嵌めるのを忘れて、石窯の中の天板に触れてしまった。
「コレット!」
リアムは慌てたように駆け寄ると、素早くコレットの手を引いて流水に当てた。
「……少し赤くなってる」
リアムはコレットの手を握ったまま、確かめるようにその手を撫でている。その横顔は本当に必死そうだった。
「ありがとう、もう大丈夫」
「全く、君はいつもそそっかしくて放っておけない」
リアムはため息をついた。
「いつもはこんな風じゃありません」
「どうかな、前はジャムパンにジャムを入れ忘れたし、一本で売るはずのバゲットを片っ端から輪切りにしてアベラに叱られてただろう」
「……見てたの。あれは全てガーリックトーストになったわ」
「知ってる。店に入った瞬間ガーリックの香りがしていたから。しばらくあの匂いが取れなかったよな」
ふっと、リアムはその日のことを思い出したように笑った。あの日のコレットは側から見ても焦っていただろう。
アベラが言葉巧みに誘導して売り切ったが、売れなかったらと思うと生きた心地がしなかった。
「……これだけ冷やしたらもう大丈夫だろう。赤みも引いたから、痕も残らないと思う。それでも薬は塗っておけ、大したことなくて良かった」
リアムはコレットの小さな手を優しく撫でた。
「コレット、どれだけそそっかしくてもいいから、怪我だけはしないでくれ」
相変わらず不遜な物言いではあるけど、心の底から心配してくれたようだった。
「……ありがとう、リアム」