理想の女ではないから婚約破棄したいと言っていたのは貴方の方でしたよね?

15.本物の愛

「まったく……あいつはいくら使えば気が済むんだ……!」

 これほどまでに激昂している主人は初めてなのだろう。使用人は怯えるばかりで部屋に入ろうともしない。

 エリオットはティナの部屋に積み上がった箱の数々を怒りに任せてなぎ払った。

「エリオット様、落ち着いてください」

 唯一部屋に入り、彼を宥めることが出来るのがダスティだった。

「これが落ち着いていられるか……!私の許可無しに外商を呼ぶことは禁止だと、あれほど言っていたではないか……」

「しかし、ティナ様はエリオット様の許可が出ていると……」

 ダスティはしどろもどろに言い訳をする。このままでは、外商を呼んだ者も、ティナの暴走を止めなかった者も、全ての責任者も解雇されてしまう。ダスティはこの場をなんとか収めようと必死だった。

「出すわけないだろう……!あんな女は偽物で十分だ」



「エリオット……?」

 なんて素晴らしいタイミングだろう。真偽を問いただそうと、ティナとリーゼが彼の元へ向かった矢先のことだった。扉の向こうでは何やら言い争うような声が聞こえていた。
 思わぬ激白を聞いてしまったティナの声は震えていた。彼女の強気な態度はすっかり鳴りを潜めて、随分と大人しくなっていた。

「……嘘、よね?」

 彼女は手が一層白くなるほど強く、ネックレスを握り締めていた。

「ティナ……、ああ、リーゼ」

 彼は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに諦めたようにがっくりとソファに沈んだ。

 何も答えないエリオットに、ティナは耐えられずに部屋を飛び出してしまった。乱暴に扉が閉まる音が響く。
 
「追いかけなくていいのですか?」

 そう言うと、エリオットは力無く笑った。

「もういい。まさかこんなことになるなんてな……」

 額に手を当てて、薄い瞼を閉じている。今にも泣き出してしまいそうにも見える。

「エリオット……」

 冷たくなった彼の手に優しく手を重ねた。

「ああ、リーゼ。昨夜は酷いことを言ってすまなかったね。随分と遅かったから心配していたよ」

 エリオットは申し訳なそうに謝る。こんな時でも一応は気に掛ける素振りを見せてくれる事には感心する。

「少し、用事を済ませて来たんです」

「そうか」

 短く一言だけ返したかと思うと、今度はリーゼの手を包み込むようにさすった。

「こんなことになってしまって申し訳ない。君への愛は本物だよ。その……少しばかり苦労をかけるかもしれないが、これからは二人で助け合って、」

「おっしゃってる意味がわかりませんけど」
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