理想の女ではないから婚約破棄したいと言っていたのは貴方の方でしたよね?
6.悲劇
「なるほど、確かにレーヴ国との繋がりを持っていると言うことはリドリー家の利点になる」
エリオットは酷く醒めた声で言った。
「それで父上は遠い親戚の伝手を使ってこの縁談を持ってきたのか」
さっきまでの柔らかい物腰とは別人のようだった。エリオットに長く仕えている従者のダスティも、彼の演技力には舌を巻いていた。
「……ただの成り上がり令嬢じゃないか」
調べたところ、ブレアム家は元々貴族だった訳ではない。何代か前に爵位を貰ったらしい。エリオットはただでさえ、レーヴ国が気に入らなかった。
数十年前までは、プティット国と大差ない国だったのに、いつの間にかレーヴ国は発展した。それどころか社交界に出ても、同じ公爵とは思えないほどの格差があるように感じてしまう。
隣国の華やかさに劣等感を感じていた、もちろんエリオットはそれを認めてはいない。
「ですが、レーヴ国の、それもブレアム家の御令嬢であれば申し分はありません」
そうとは知らないダスティは、地雷を踏み抜くような発言をする。
エリオットの眉が不機嫌そうに動いたことに気付いたものの、理由まではわからないだろう。
ブレアム家の長女の美貌は有名だ。大きな舞踏会があると新聞記事に名前が載るほどだった。
エリオットは小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「……私の理想の女とはほど遠い。それに、あの栄華を極めたレーヴ国出身だと言うのなら、もう少し華やかな女性かと思っていたのだが……少々地味ではないか?」
「しかし……」
「ああ、婚約は破棄してしまおうか」
エリオットは額に手を当てて大袈裟に溜息をついた。
「エリオット様……」
「なに、冗談だ。リドリー家として、父もこの結婚を望んでいたのだから。それに、どうせ後には引けないさ。記者も何人か呼んでいたから、明日には私たちが婚約したという話は知れ渡る」
一度受けてしまった結婚の約束を、女性の方から断るのは余程のことではないと容易ではない。
それどころか、一度世間に知られてしまったら、他に寄り付く男性もいないだろう。
行き遅れないためにも、ここで手を打つことが最善だと諦める。
「流石で御座います、抜かりのないことで」
「それに、お互いの家にとって利益があることなのだ。あの子もそれを分かっているはずだから、断りはしないだろう」
二人は声を上げて楽しそうに笑っていた。扉の向こうにリーゼがいることも知らずに。
そしてもう一人、物陰から会話を盗み聞く人物がいたことにも、誰も気が付いてなどいなかった。
エリオットは酷く醒めた声で言った。
「それで父上は遠い親戚の伝手を使ってこの縁談を持ってきたのか」
さっきまでの柔らかい物腰とは別人のようだった。エリオットに長く仕えている従者のダスティも、彼の演技力には舌を巻いていた。
「……ただの成り上がり令嬢じゃないか」
調べたところ、ブレアム家は元々貴族だった訳ではない。何代か前に爵位を貰ったらしい。エリオットはただでさえ、レーヴ国が気に入らなかった。
数十年前までは、プティット国と大差ない国だったのに、いつの間にかレーヴ国は発展した。それどころか社交界に出ても、同じ公爵とは思えないほどの格差があるように感じてしまう。
隣国の華やかさに劣等感を感じていた、もちろんエリオットはそれを認めてはいない。
「ですが、レーヴ国の、それもブレアム家の御令嬢であれば申し分はありません」
そうとは知らないダスティは、地雷を踏み抜くような発言をする。
エリオットの眉が不機嫌そうに動いたことに気付いたものの、理由まではわからないだろう。
ブレアム家の長女の美貌は有名だ。大きな舞踏会があると新聞記事に名前が載るほどだった。
エリオットは小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「……私の理想の女とはほど遠い。それに、あの栄華を極めたレーヴ国出身だと言うのなら、もう少し華やかな女性かと思っていたのだが……少々地味ではないか?」
「しかし……」
「ああ、婚約は破棄してしまおうか」
エリオットは額に手を当てて大袈裟に溜息をついた。
「エリオット様……」
「なに、冗談だ。リドリー家として、父もこの結婚を望んでいたのだから。それに、どうせ後には引けないさ。記者も何人か呼んでいたから、明日には私たちが婚約したという話は知れ渡る」
一度受けてしまった結婚の約束を、女性の方から断るのは余程のことではないと容易ではない。
それどころか、一度世間に知られてしまったら、他に寄り付く男性もいないだろう。
行き遅れないためにも、ここで手を打つことが最善だと諦める。
「流石で御座います、抜かりのないことで」
「それに、お互いの家にとって利益があることなのだ。あの子もそれを分かっているはずだから、断りはしないだろう」
二人は声を上げて楽しそうに笑っていた。扉の向こうにリーゼがいることも知らずに。
そしてもう一人、物陰から会話を盗み聞く人物がいたことにも、誰も気が付いてなどいなかった。