他人に流されやすい婚約者にはもううんざり! 私らしく幸せを見つけます
5.天使か悪魔か
その夜、ウェスは恒例の集まりに参加していた。毎週末の夜、幼馴染の四人でああでもないこうでもないと朝までくだらないことを語り合う。その内の一人であるエイダンが結婚して抜けてしまったから、これからは三人になる。
一人は、オーランド・ブランシェ子爵。彫りの深い顔立ちでかなりの色男で、背がすらりと高い。物腰が柔らかく紳士的なのだが、彼女が出来てもなかなか長続きしない。振られる理由はいつも"おもしろくないから"だ。二回目のデートまで続いたことはほとんどない。
そしてもう一人はシルヴェスタ・バーチ男爵。顔立ちは悪くないと思うのだが、女性たちに言わせると"普通"。ウェスやオーランドと比べられることが多く、コンプレックスを抱えている。とにかく寂しがり屋で、毎週末の飲み会を提案してるのは彼だ。
この飲み会を"独り身同盟"と呼んでいる。同盟結成時は恋人を作ることも禁止だったが、今は曖昧だ。現にウェスもオーランドも恋人がいる。
「元気ないな、ウェス」
オーランドが心配そうな顔で訪ねた。
「ああ、彼女と少し上手くいかなくて」
そう言うと、オーランドはさりげなく酒を一杯注文した。どうやら最初の一杯は奢ってくれるらしい。
「どうした、話して見ろよ」
シルヴェスタは興味津々といった目をしている。
「……実は彼女がハイガーデンの屋敷で暮らすと言い出したんだ」
「ああ、彼女のおばあさんが暮らしているんだよな。前に話し合ったって言ってなかったか? それとも、何かあったのか?」
オーランドは彼女のおばあさんのことも心配してくれているようだった。運ばれた酒を一気に飲み干すと、すかさずウェスは二杯目を注文した。
「療養のためにしばらく帰ってこれないかもしれないから、留守番が必要らしいんだ」
「それは……大変だな」
オーランドとシルヴェスタは深刻な表情で頷いた。
「ああ、だがハイガーデンになんて行ってしまったら会えない。俺だって忙しいんだ」
ハイペースで飲み進めるウェスをやんわりと手で制しながら、オーランドはグラスを落とさないようにウェスの体から遠ざけた。
「そうだな」
オーランドはこういう時、ウェスの意見を否定することなくただ頷いてくれる。こんなに優しいのに、歴代の元恋人たちは何が気に入らなかったと言うのだろう。
「でも、まだ結婚してる訳じゃないんだからそうそう縛ってもおけないだろう。彼女にも彼女の人生がある……。それに、ハイガーデンなんてどうせ田舎者しかいない。浮気の心配もないとは思うが……」
オーランドはそう言ってウェスを励ました。暗にウェスに信じて待つように言っているのだ。
「それともこれが潮時か? また新しい恋人を見つけるのもいいんじゃないか」
シルヴェスタは少し意地悪そうな顔をして笑った。彼はいつもこうだ。波乱を呼び起こそうと唆す。いつもはオーランドもそちら側の人間なのだが、今回は違う。最近出来たばかりの新しい彼女と二度目のデートが叶いそうだから、幸せなのだ。そう言う時の彼は特別に優しい。
「でも……俺は彼女と結婚したいんだ」
ウェスは酔っているのか、珍しく素直な心の内を明かした。うんうん、と頷きながらオーランドがウェスの肩を抱いた。ウェスはなだれ込むようにオーランドの胸に身を預けた。甘い香水の香りがする。
「……彼女に本当に"婚約"しているのか、なんて言われてしまったよ。ただの口先だけの約束だと」
婚約していることは、二人には話していなかった。正式に日程が決まったら話そうと思っていたのだ。二人が一瞬顔を見合わせたのが見えて"しまった"と思ったが、特にそこに触れることはなかった。
「してるだろう、それに婚約なんて口約束みたいなもんだ」
俺だってしょっちゅう申し込んではフラれてしまう。オーランドはそう言って笑ったが、シルヴェスタは心なしか面白くなさそうな表情をしていた。寂しがりやの彼のことだから、何も聞かされていなかったことが引っ掛かっているのかもしれない。
「……それじゃあ、彼女がハイガーデンに行く前に結婚の話を進めたらいい」
シルヴェスタはそう言って、酒を一気に飲み干した。
「彼女はもう来週中にはハイガーデンに行ってしまう」
「彼女がウェスを愛しているなら、その気持ちに答えてくれるはずだ。無理なら終わりにするといえば、彼女だって目を覚ますだろう」
一人は、オーランド・ブランシェ子爵。彫りの深い顔立ちでかなりの色男で、背がすらりと高い。物腰が柔らかく紳士的なのだが、彼女が出来てもなかなか長続きしない。振られる理由はいつも"おもしろくないから"だ。二回目のデートまで続いたことはほとんどない。
そしてもう一人はシルヴェスタ・バーチ男爵。顔立ちは悪くないと思うのだが、女性たちに言わせると"普通"。ウェスやオーランドと比べられることが多く、コンプレックスを抱えている。とにかく寂しがり屋で、毎週末の飲み会を提案してるのは彼だ。
この飲み会を"独り身同盟"と呼んでいる。同盟結成時は恋人を作ることも禁止だったが、今は曖昧だ。現にウェスもオーランドも恋人がいる。
「元気ないな、ウェス」
オーランドが心配そうな顔で訪ねた。
「ああ、彼女と少し上手くいかなくて」
そう言うと、オーランドはさりげなく酒を一杯注文した。どうやら最初の一杯は奢ってくれるらしい。
「どうした、話して見ろよ」
シルヴェスタは興味津々といった目をしている。
「……実は彼女がハイガーデンの屋敷で暮らすと言い出したんだ」
「ああ、彼女のおばあさんが暮らしているんだよな。前に話し合ったって言ってなかったか? それとも、何かあったのか?」
オーランドは彼女のおばあさんのことも心配してくれているようだった。運ばれた酒を一気に飲み干すと、すかさずウェスは二杯目を注文した。
「療養のためにしばらく帰ってこれないかもしれないから、留守番が必要らしいんだ」
「それは……大変だな」
オーランドとシルヴェスタは深刻な表情で頷いた。
「ああ、だがハイガーデンになんて行ってしまったら会えない。俺だって忙しいんだ」
ハイペースで飲み進めるウェスをやんわりと手で制しながら、オーランドはグラスを落とさないようにウェスの体から遠ざけた。
「そうだな」
オーランドはこういう時、ウェスの意見を否定することなくただ頷いてくれる。こんなに優しいのに、歴代の元恋人たちは何が気に入らなかったと言うのだろう。
「でも、まだ結婚してる訳じゃないんだからそうそう縛ってもおけないだろう。彼女にも彼女の人生がある……。それに、ハイガーデンなんてどうせ田舎者しかいない。浮気の心配もないとは思うが……」
オーランドはそう言ってウェスを励ました。暗にウェスに信じて待つように言っているのだ。
「それともこれが潮時か? また新しい恋人を見つけるのもいいんじゃないか」
シルヴェスタは少し意地悪そうな顔をして笑った。彼はいつもこうだ。波乱を呼び起こそうと唆す。いつもはオーランドもそちら側の人間なのだが、今回は違う。最近出来たばかりの新しい彼女と二度目のデートが叶いそうだから、幸せなのだ。そう言う時の彼は特別に優しい。
「でも……俺は彼女と結婚したいんだ」
ウェスは酔っているのか、珍しく素直な心の内を明かした。うんうん、と頷きながらオーランドがウェスの肩を抱いた。ウェスはなだれ込むようにオーランドの胸に身を預けた。甘い香水の香りがする。
「……彼女に本当に"婚約"しているのか、なんて言われてしまったよ。ただの口先だけの約束だと」
婚約していることは、二人には話していなかった。正式に日程が決まったら話そうと思っていたのだ。二人が一瞬顔を見合わせたのが見えて"しまった"と思ったが、特にそこに触れることはなかった。
「してるだろう、それに婚約なんて口約束みたいなもんだ」
俺だってしょっちゅう申し込んではフラれてしまう。オーランドはそう言って笑ったが、シルヴェスタは心なしか面白くなさそうな表情をしていた。寂しがりやの彼のことだから、何も聞かされていなかったことが引っ掛かっているのかもしれない。
「……それじゃあ、彼女がハイガーデンに行く前に結婚の話を進めたらいい」
シルヴェスタはそう言って、酒を一気に飲み干した。
「彼女はもう来週中にはハイガーデンに行ってしまう」
「彼女がウェスを愛しているなら、その気持ちに答えてくれるはずだ。無理なら終わりにするといえば、彼女だって目を覚ますだろう」