他人に流されやすい婚約者にはもううんざり! 私らしく幸せを見つけます
8.新しい出会い
突然背後から声を掛けられ、クロエは飛び上がって驚いてしまった。声は出なかったものの、心臓は飛び出してしまいそうなほど高鳴っている。
「何……? 驚いたわ」
「それはこっちの台詞だ」
男は容赦なくクロエの顔に持っていた灯を近付けた。
「何よ、危ないじゃない!」
クロエは男の無礼な態度に腹が立っていた。相手の手を掴むと、同じようにその灯を男の顔に近付けた。
ゆらゆらと揺れる炎の向こうに男の困惑した顔が見えた。柔らかそうな金色の髪に、意外と優しそうな碧い瞳。人形のように整った容姿にクロエは思わず声を失った。
「……女の子だったのか、これは失礼した」
男はまだ困惑しているようで、口に手を当てながら視線を彷徨わせている。
「なんだと思ったのよ……」
クロエは溜息を吐いた。怒りは治ったものの、まだ胸がドキドキしている。
「最初は熊か何かかと……だって、それ」
男はクロエのコートを指差すと、ふっと緊張が解けたように笑い出した。つられてクロエも笑ってしまう。
「ええ、そうね。確かに熊に見えるかも」
「君は……? 見ない顔だね」
「私はクロエ・マリン。すぐそこの……ペネロペ・アーモンドの孫よ」
「アーモンド夫人の? じゃあ、君があの"クロエ"か。よく話を聞いたよ」
「私はノーラン・キングズリーだ。困ったことがあったら何でも言ってくれ。お隣さんだ」
彼がさっと指差す方には立派なお屋敷がある。そういえば、ペネロペからの手紙に"何かあったらキングズリーさんに"と書いてあった。てっきりもっと高齢の男性を想像していた。
「貴方がキングズリーさん、しばらくの間よろしくお願いします」
「よろしく。ところで、こんな時間にどうしたんだ?」
「実は、薪を切らしてしまって」
「ああ、ハイガーデンの冬を甘く見ていたな?」
にっこりと白い歯を見せて笑う彼は、まるで王子様のようだった。常々ハイガーデンを"田舎"扱いしていたウェスに見せてやりたい。彼は世界に誇るべき美形だと思う。
「運ぶのを手伝うよ。夜を越すのに必要な薪を知ってるかい? 君一人で運んでいるうちに朝になってしまうよ」
おまけに優しくて紳士的、完璧だ。新しい恋をするつもりなんて到底無いのだが、目の保養として心の潤いになる。最初の印象が最悪だったせいか、少し微笑み掛けてくれたというだけでも彼の評価はぐんぐんと上がっていくばかりだった。
「てっきりレディがくると思っていたから……」
ノーランは息切れひとつしないで楽々と両腕に薪を抱えている。ほっそりとしているが意外と力があるらしい。
「遠いところから大変だったね。ところで、今いくつなんだ?」
何かがピシッと砕ける音がした。
「……ありがとう、もうすぐ二十二よ」
「へえ、私と同じだ。……え?」
前言撤回、やっぱり最初の印象通りの男だった。
「何……? 驚いたわ」
「それはこっちの台詞だ」
男は容赦なくクロエの顔に持っていた灯を近付けた。
「何よ、危ないじゃない!」
クロエは男の無礼な態度に腹が立っていた。相手の手を掴むと、同じようにその灯を男の顔に近付けた。
ゆらゆらと揺れる炎の向こうに男の困惑した顔が見えた。柔らかそうな金色の髪に、意外と優しそうな碧い瞳。人形のように整った容姿にクロエは思わず声を失った。
「……女の子だったのか、これは失礼した」
男はまだ困惑しているようで、口に手を当てながら視線を彷徨わせている。
「なんだと思ったのよ……」
クロエは溜息を吐いた。怒りは治ったものの、まだ胸がドキドキしている。
「最初は熊か何かかと……だって、それ」
男はクロエのコートを指差すと、ふっと緊張が解けたように笑い出した。つられてクロエも笑ってしまう。
「ええ、そうね。確かに熊に見えるかも」
「君は……? 見ない顔だね」
「私はクロエ・マリン。すぐそこの……ペネロペ・アーモンドの孫よ」
「アーモンド夫人の? じゃあ、君があの"クロエ"か。よく話を聞いたよ」
「私はノーラン・キングズリーだ。困ったことがあったら何でも言ってくれ。お隣さんだ」
彼がさっと指差す方には立派なお屋敷がある。そういえば、ペネロペからの手紙に"何かあったらキングズリーさんに"と書いてあった。てっきりもっと高齢の男性を想像していた。
「貴方がキングズリーさん、しばらくの間よろしくお願いします」
「よろしく。ところで、こんな時間にどうしたんだ?」
「実は、薪を切らしてしまって」
「ああ、ハイガーデンの冬を甘く見ていたな?」
にっこりと白い歯を見せて笑う彼は、まるで王子様のようだった。常々ハイガーデンを"田舎"扱いしていたウェスに見せてやりたい。彼は世界に誇るべき美形だと思う。
「運ぶのを手伝うよ。夜を越すのに必要な薪を知ってるかい? 君一人で運んでいるうちに朝になってしまうよ」
おまけに優しくて紳士的、完璧だ。新しい恋をするつもりなんて到底無いのだが、目の保養として心の潤いになる。最初の印象が最悪だったせいか、少し微笑み掛けてくれたというだけでも彼の評価はぐんぐんと上がっていくばかりだった。
「てっきりレディがくると思っていたから……」
ノーランは息切れひとつしないで楽々と両腕に薪を抱えている。ほっそりとしているが意外と力があるらしい。
「遠いところから大変だったね。ところで、今いくつなんだ?」
何かがピシッと砕ける音がした。
「……ありがとう、もうすぐ二十二よ」
「へえ、私と同じだ。……え?」
前言撤回、やっぱり最初の印象通りの男だった。