冷徹な御曹司は親友の妹への溢れ出る独占欲を抑えられない。
お兄ちゃんの親友
「いらっしゃいませ!」
「紫、鯖定食一丁!」
「はーい!」
ここは下町の定食屋「ふじみや」。
親しみやすい味と雰囲気で地元民に愛される小さな定食料理屋だ。
「葵くん、腕上げたねぇ」
「大将の味にどんどん似てきてるよ」
「ありがとうございます。僕なんかまだまだですよ」
こちらは私の兄で店長兼板前の藤宮葵、二十八歳。
「女将さんもいい息子さん持って幸せじゃないか」
「おかげさまで。皆さんに支えてもらってるおかげですね」
レジを打っているのは私の母。
母はホール、キッチンの補佐の他に店の経理も全て担当している。何でもできて働き者だ。
「それに紫ちゃんみたいな看板娘がいたら、毎日でも通いたくなっちゃうよ!」
「も〜お上手なんですから。でも、これからもご贔屓にしてくださいね?」
「紫ちゃんに言われちゃ敵わないねぇ!」
そして私、藤宮紫、二十二歳。
大学に通いながら実家を手伝っています。
二年前、板前だった父が亡くなり、お兄ちゃんが跡を継いだ。それから家族三人で助け合って頑張っている。
お兄ちゃんは大手商社に勤めていたけど、ふじみやをなくしたくないと脱サラしてお店を継いだ。
一から料理を学んで、試行錯誤してお父さんの味に近づけようと、日々努力している。
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