冷徹な御曹司は親友の妹への溢れ出る独占欲を抑えられない。
本音を言えば、恋がしたかった。
好きな人と恋人同士になって、手を繋いでデートして、何気ない会話をしたり電話をしたり。
毎日メッセージのやり取りとかして、たまには喧嘩して仲直りして。
やっぱり大好きって伝え合って、キスをして、それ以上も――。
普通の恋がしたかったな。
いきなり結婚することになるなら、せめて好きな人くらい作ればよかった。
たった一人で終わってしまうなんて。
「――紫?」
今一番会いたいような、会いたくないような人の声がした。
「店の前で座り込んで何してんだよ」
「……キリさんこそ、今日はもう閉店ですよ」
「仕事でこの辺に来たから、ちょっと寄ってみただけ」
スーツを脱いで腕に持ち、第一ボタンを開けてネクタイを緩めたキリさん。仕事が終わったからなのか、ちょっと気が抜けている。
「どうした?」
「……何でもないです。ちょっと黄昏たい気分なんです」
「ふーん」
そう言ってキリさんは何故か私の隣に座る。
「帰らないんですか?」
「俺も黄昏たい気分」
「そうですか」
正直今は一人にして欲しいんだけどな……。
そう思っていたら、隣のキリさんから甘ったるい匂いがした。多分女物の香水だと思う。
この人って、本当に……。