冷徹な御曹司は親友の妹への溢れ出る独占欲を抑えられない。
「香水臭いんですけど」
嫌味っぽく言ったら、キリさんは「やっぱり?」と平然としていた。
「さっきまで商談してた女社長がやたらと香水臭くてさぁ。しかもやたらとベタベタしてくるんで、鼻が曲がりそうだった」
「本当にそれだけですか?」
「そうだけど?」
「ふーーーん」
信用できないけど、まあそういうことにしておこう。私には関係ないことだし。
「なんか機嫌悪そうだな」
「そんなことないですよ」
「嫉妬?」
「なんでそうなるんですか?」
「この手の話になると紫、いつも塩じゃん」
「呆れてるだけです」
「あ、そう」
キリさんは胸ポケットから煙草を取り出し、シュボッと火をつけた。いつもなら禁煙です、って言うところだけど、今はどうでも良かった。
むしろ煙草の匂いでも悪くない。甘ったるい香水の匂いよりも遥かにマシ。
結婚したら、この人と会うこともなくなるんだろうな……。そう思ったら、急に突拍子もないことを思いついた。
「男の人って好きじゃなくても抱けるって本当ですか?」
「は……?」
キリさんは咥えた煙草を落としそうになっていた。
「急にどうした?」
「いや、どうなのかなぁと思って」
「そんなの人によるだろ」
「じゃあ、私のこと抱いて欲しいって言ったら抱いてくれますか?」
「はあっ!?」
今度は思いっきり煙草を落とした。