冷徹な御曹司は親友の妹への溢れ出る独占欲を抑えられない。


 両親は昔から仕事が忙しかったので、私はほぼお兄ちゃんに面倒を見てもらった。
 優しくて家族思いで努力家なお兄ちゃん。私も大好きなお兄ちゃんを支えたくて、積極的にお店を手伝っている。


「いらっしゃいませ!……あ。」

「よ、いつものよろしく」


 ふらりと現れた高そうなスーツに身を包んだ、定食屋には似つかわしくない男性客。


「おおキリ!来てくれたのか」
「いつものちょうだい」
「鮭定食な」


 お兄ちゃんはにこやかに笑って厨房に入る。
 この人が来た途端、女性客たちが色めき立ったのがよくわかった。

 彼の名はキリさん。本名は知らない。
 高校時代からのお兄ちゃんの親友。


「はい、おしぼりとお茶です」
「サンキュー。紫、必ずいるけど大学は?」
「四年なのでほぼ講義はないんですよ」
「なるほどね。紫ももう四年か。就職は?」
「ふじみやを手伝うので」


 そう、大学卒業したら本格的にふじみやで働くつもりでいる。
 お兄ちゃんもお母さんも自分のやりたい仕事をしてもいいと言ってくれたけど、これが私のやりたいことなんだ。少しでも家族のためにできることをしたい。


「紫が毎日いるなら毎日来ちゃうかもな」
「……そういうのいらないです」
「冷たっ」
「はい、鮭定食です」
「お、相変わらず旨そう」


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