冷徹な御曹司は親友の妹への溢れ出る独占欲を抑えられない。
俺はざっくりと三谷須金融が闇金であること、社長の三谷須は最低なDV野郎だということを話す。
電話越しで葵は絶句しており、声はワナワナと震えていた。
『そ、そんな……紫……』
「三谷須のことは俺に任せろ。とにかく何が何でも紫には近づけさせるな」
『ありがとう、キリ……でもどうして?』
「紫本人に聞いたんだよ。借金と引き換えに結婚しろとか言う男はロクでもないと思って調べた」
『そうだったのか。紫、キリに直接話したのか』
もちろん、そのまま俺の家に泊まらせたことは内緒だ。紫も友達の家に泊まると言ったみたいだし。
「つーかお前、なんで俺に黙ってた?」
『だって、キリに迷惑かけられないよ』
「俺に金借りようとか思わなかったのか?」
『そんなこと、できないよ』
「でも、紫を変な男に嫁に出すより俺に借りる方が絶対いいだろ」
葵はしばし黙った後、こう返した。
『……正直に言えば、真っ先に思いついたことだった。でも、真っ直ぐ言い切る紫を見ていたら言えなくて。最低な兄だよな』
「葵……」
『最初から言えばよかった。助けてくれ、キリ……!』
初めて会った時から、葵は六条財閥の御曹司ではなく、六条桐光として接してくれた。
俺に近づく奴らはみんな俺じゃなく、六条に興味があった。何の打算もなく話しかけてきたのは、葵が初めてだった。
葵のこういうところは、多分紫にも受け継がれているような気がする。