冷徹な御曹司は親友の妹への溢れ出る独占欲を抑えられない。
「家の用事?それは僕とのデートより優先されることなの?」
「すみません……早く帰るように言われていますので」
「どうして?婚約者との初デートなのに」
「本当にすみません。この埋め合わせは必ずしますから」
丁寧に頭を下げてその場を立ち去ろうとしたら、ガシッと腕を掴まれた。
「婚約者の僕より優先すべきことなんてあるの?」
三谷須さんの語気が強く、表情にも明らかに不快感が見えた。握られる腕がすごく痛い。
「い、痛い……」
「待ってよ、紫さん。君のために予約したんだよ?フレンチもホテルもなかなか予約の取れないところで苦労したんだ。君が喜ぶと思ったのに、僕の気持ちを踏みにじるの?」
そんなこと言われても、私の予定を聞かずに勝手に予約したのはそっちじゃない。
そう言いたい気持ちをグッと堪える。
「僕の誘いを断るなんて、君にそんな権利があると思うのか?」
「……っ」
あまりにも傲慢すぎる言い方をされて、その時確信した。この人とは上手くやれない。
これから夫婦をやっていくなんてできない。
もしかしたら好きになれるかもしれない、って思ったけど無理だ。結婚しても幸せになんてなれない。
でも、この人と結婚しないとふじみやが……。
腕も痛いが心も痛かった。どうすればいいのかわからなくて、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。
「〜〜っっ」
「泣いてる?どうして泣いてるの?泣く程嫌ってことなのか!?」
助けて、助けてお兄ちゃん……っ!!
心の中で何度も叫ぶ。
「お前、僕のことバカにしてるんだろ!!」
大声で怒鳴りつける婚約者に対し、恐怖と不快感しかない。
やっぱり私の考えは甘くて浅はかだった。よく知りもしない人といきなり結婚して、上手くいくはずがなかったんだ。