冷徹な御曹司は親友の妹への溢れ出る独占欲を抑えられない。


 キリさんが帰ったのと入れ替わりに、またスーツ姿の男性がやって来た。初めて見る人だ。
 身長がかなり高くて百八十センチ以上はありそう。キリさんもスラっとしていてスタイルが良いけど、この人はがっしりした体型だ。


「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
「はい」
「こちらのお席へどうぞ」


 私は常連客の顔は全員覚えているので、多分初めてのお客さんだと思う。
 キリさんと同じで持ち物が高級品ばかりだ。七三分けにセットされた髪はデキるサラリーマンという雰囲気を醸している。

 彫りが深くて結構イケメンなんじゃないかと思うんだけど、なんか妙に私のことをジロジロ見てきて嫌だなぁ……。


「ご注文は?」
「君のおすすめはなんですか?」
「えっと、定番の鮭定食です」
「ではそれを」
「かしこまりました」


 注文を取り終わってもじっと後ろ姿を見てくる。
 何なんだろう?と背中に寒気を感じながら、ご飯をよそったりお味噌汁を注いだ。


「お待たせ致しました、鮭定食です」
「ありがとう」


 ギョロリとした大きな目をしっかりと私に向け、そう言った。
「ごゆっくりどうぞ」と言って私は他の席の皿を片しに行く。あまり気にしないようにして、仕事に集中する。


「ごちそうさまでした」
「ありがとうございます」


 お会計の時もやたらと見られているような気がした。


「ありがとうございました。またお越しください」
「あの」
「はい?」
「お名前聞いてもいいですか?」
「藤宮です」
「いえ、下の名前」
「……紫です」
「紫さん」


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