フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
「私の名前は御笠晴臣。旧御笠財閥の人間だ。今朝方、双方合意の上、このハピエストブライダル社は御笠グループが買収した。よって、私が社長に就任し――」

 待って、待って待って待って!

 脳みそがショートしそうになる。
 オフィス内にも動揺が広がり、皆こそこそとささめいている。

「なお、人事は改善が必要ならば変えていくつもりだ。よろしく頼む」

 御笠晴臣――もとい、わが社の社長がそう言うと、朝礼が終わる。
 目の前のパソコンは真っ暗な画面に切り替わった。

「部長、どういうことですか⁉」

 社員たちがフロアの部長に詰め寄っている。

 私は慌てて目の前のパソコンに、御笠グループと我が社名を入力し検索をかける。
 インターネットのニュースでは、先ほど彼が言ったことがそのまま記事になっていた。

「『御笠グループは(かね)てからブライダル業界に乗り込もうとしており、その大きな第一歩となった』って……」

 嘘のような本当の話に、息をするのも忘れる。
 よりによって、今朝、謎の求婚をしてきたあの御曹司が、社長だなんて……っ!

「フラワーデザイン部の南戸美緒さん」

 はっと息を吸ったところで、突然名前を呼ばれた。

「はい、南戸は私ですけど――」

 立ち上がると、私の名を呼んだ男性はニコリと笑ってこちらにやってきた。

「南戸さん、本日より社長秘書への異動辞令が出ております。早急に、社長室までお越し頂けますでしょうか?」

「はぁ⁉」

 思わず飛び出た大声にも動じず、目の前の彼はニコニコと心の読めない笑みを浮かべている。

「さあ、早く。社長は忙しいのです」

「で、ですが……」

 意味が分からず一歩後ずさると、彼は「失礼しました」と私に何かの紙を差し出す。
 見れば、『異動辞令 社長秘書 南戸美緒』の文字が並んでいる。

「いやいや……」

「社長からのご指名なのです。とにかく今から一度、社長室へ」

 行かなければならない笑顔の圧に、ちらほらとこちらに怪訝な視線を向ける同僚――。

「分かりました、伺います」

 仕方なく、私は男性について社長室へ向かった。
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