フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
 隣の部屋のチャイムを鳴らす。
 程なくして、ガチャリと鍵の開く音がした。

 嘘、本当に誰かいる!
 フライパンでも持ってくるんだった!

 何も持たず、部屋着のまま来てしまったことを後悔してももう遅い。
 ドアノブがぐるりと回り、扉がゆっくりと開く。

「誰だ?」

 そう言って出てきた男性に、私は目を奪われた。

 見上げるほどの背の高さの彼は、オールバックに整えた栗色の髪。
 色素の薄い茶色の瞳は、どこか日本人離れしているようにも見える。
 着ているのはグレーのスウェットなのに、なぜか全然部屋着感が無い。
 
 あれ、私、この人にどこかで会ったこと――?

 なんとなく既視感を覚えるが、こんなイケメンが知り合いにいたら忘れないはずだとも思う。

「何、お前」

 ぼうっとしていたらしい。
 目の前の彼が、顎に手を当てこちらを見下ろす。

 いけないいけない、要件を忘れるところだった!

 けれど、『お前』呼ばわりしてくるゼロ距離なイケメンを目の前にしたら、怒りは吹っ飛んでしまい。

「えっと、隣に住んでる者なんですけど、すごい音がしたので、気になって……」

 おろおろしながら話すと、彼は「そんなに隣に音が聞こえるのか」と独り言つ。

「悪い。今日引越してきたんだが、壁に設置できるはずの棚がうまくつけられなくてだな……」

 よかった、怖い人ではないみたい。

 っていうか、棚の設置って。
 いかにも、背の高い彼なら簡単にできそうなものである。

「この部屋、思ったより収納が少ない。というか、狭い。お前は困ってないのか?」

 服も物もクロ―ゼットにすべて入る。
 一人暮らしだし、狭いと思ったことなど一度もない。

 けれど、こんなイケメンを前にして、服を持っていないと女子力皆無をアピールするのも、なんだか嫌で。

「そ、そうですよね」

 誤魔化すように言えば、彼の頬が綻んだ。

「だよな」

 先ほどまでの怪訝な顔との変わりように、なぜか胸がキュンと鳴る。

「お前も、家に棚を取り付けたりしてるのか?」

「まあ、そうですね……」

「なら……、お前、手伝ってくれないか?」
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