フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
「先輩、これどうします?」

 会場を出て控室へ向かうと、後輩が潰れてしまった花を集めて段ボールに入れていた。

「あー……」

 お花自体は可愛く、綺麗だ。
 白の中に少しだけピンクや黄色の混じった花たち。
 そのまま処分してしまうには、惜しい。

 だったら――。

「確認してみないといけないけれど、できそうだったらフラワーシャワーにしちゃおうか」

「いいですね! あー、でも……」

 後輩は気まずそうに視線をさまよわせた。

「あ、そうか……」

 彼女は今日はヘルプ。
 この後は別の会場へのヘルプが入っているのだ。

「まだ式は始まったばっかりだから、私一人で平気だよ。別所のヘルプの方が大事」

「先輩……ありがとうございます!」

 先輩が去っていったのと同時に、私は各所に確認を取り、籠を二つ用意してもらった。

 それから、花びらをはがす作業へ入る。
 根元から外さなくては、ちぎれてしまうので丁寧に。

 フラワーシャワーの由来は、悪霊や災難から新郎新婦を守る魔除け。
 だから私も、二人の幸せが永遠に続きますようにと願いを込めて作業していく。

 やがて、会場の方がにぎやかになっていく。
 どうやら、式場へ参列客が集まってきたらしい。

「美緒、皆が会場の飾りつけを褒めていた。良かったな」

 不意にやってきた社長がそう言って、嬉しくなる。
 けれど、作業の手を止めるわけにはいかない。
 フラワーシャワーにするには、もう少し花びらが必要だ。

「……何をしているんだ?」

 社長は私の手元をのぞき込んできた。

「潰れてしまったお花を、フラワーシャワーにしようと思って。まだまだ綺麗なので」

 だが、会場に参列者が来たということは、そろそろ行かなくてはならない。
 フラワーガールに、お花を預けに行かなくては。

 すると、社長は箱から一輪花を取り出す。

「これを、解体していけばいいのか?」

「え、あ、まあ、そうなんですけど――」

「やっておく。お前は行かねばならないのだろう」

 社長はそう言って、私からピンセットを奪い取る。

「……じゃあ、お願いします」

 そう言って、花びらの破けやすい方向と取りやすいつまみ方を社長に教えた。
 社長は飲み込みが早く、真剣に一枚一枚花びらを剝がしていく。

「行ってきますね」

 その真剣な横顔に私はそう言って、フラワーガールの元へ向かう。
 控室ですれ違った金井さんは、ニコっと私に微笑んでいた。
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