フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
 腕を引かれ部屋の中に引き入れられる。
 その強引さに、上から目線なのが癪に障るという事態も置いてけぼりにされる。

 彼の部屋を見回し、驚いた。
 角部屋だと、こうも違うのか、と。

 私の部屋の3倍くらいはある面積の床。
 収納は奥行きから考えて、おそらくウォーキングクローゼット。

 ……なのに、収納が足りないとは。

 不思議に思いながら、問題の棚のところへやってくる。
 どうやら、天井と床を突っ張り棒で取り付けるタイプの棚らしい。

 なのに、彼は天板を持ってあたふたしている。

「あー、先にこっちをつけるんだと思います」

 床に置いてあった棒を手に取ると、彼は目を丸くしてこちらを見る。

「そうか。悪いな、普段はこういうことは自分じゃやらないんだ」

 少し頬を染め、そっぽを向いて言う彼。
 先ほどとはまた違う表情に、またトクンと胸が鳴り、慌てて頭を振った。

「じゃあ、私こっち持ってますね。あなたはここを回して、突っ張るようにしてくれますか?」

「ああ」

 素直に彼は板を足元に置き、私の方へやってくる。

「位置はここでいいですか?」

 確認し、くるくると棒を回して固定していく。
 反対側を固定していると、彼は不意に口を開いた。

御笠(みかさ)晴臣(はるおみ)だ」

「……え?」

 その言葉に、思わず手を離してしまった。
 まだ固定されていない棒が、ぐらりと傾く。

「うわっ!」

 彼はそれを慌ててキャッチすると、またくるくると回し始めた。

「俺の名前。『あなた』と呼ばれるのは、好きではない」

 いや、それが名前だということは分かる。
 けれど、そこじゃない。

 ――御笠晴臣。

 それは、女性誌にテレビにひっぱりだこな、イケメン御曹司の名前。
 そして、そこで見た顔と目の前にある顔が、重なる。

「もしかして、旧御笠財閥の――」
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