フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
 突然包まれた社長の腕の中。
 着ているスーツからは、社長の匂いがする。
 分厚い胸板を目の前にして、何も言えなくなってしまう。
 
 心臓の鼓動だけがドクドクと大きく響く。
 これは、きっと私の音。
 でも、何で――?

 すると突然、どこからかクスクスと笑う女性の声がして。
 社長がはっと腕を解く。
 私の目に入ったのは、美しい振袖姿の女性だ。

 きっと、社長のお見合い相手。

 突然目の前に現れた、すっぴん寝起きのジャージ姿の私を、嘲笑っている。
 そんな私を、抱きしめた社長。
 きっと、皮肉なくらいに憎らしいはずだ。

 ぎゅっと身構え、でも立ちすくむことしかできない。

 なのに。

「晴臣さんにも、想い合っているお相手がいらっしゃるんじゃないですか」

 お見合い相手と思しき女性は、そのまま「うふふ」と上品に笑う。
 それは、嫌味なものには見えなくて。

 彼女を見つめ、それから目の前の社長を見上げる。
 その頬が、ほんのり紅潮しているような気がして――。

「誤解がないように伝えておくわね。これは表向きのお見合いなの」

「え……?」
 
 女性の方を向き、その可笑しそうに笑う顔にぽかんと口が開いてしまう。

「私には彼氏がいるの。元々破断になるものだったのよ。でも、晴臣さんにも想い人がいるっていうから、話を聞いていたら――当人がやってきてしまうんですもの」

 彼女はまたクスクスと笑って、「ねえ、晴臣さん」と意味深な笑みを社長に投げる。

「あの、想い人って――」

 確認したくて、口を開いた。
 私の思い違いかもしれない。

 見上げた社長は、また耳をぽっと赤らめて。

「皆まで言わないと分からないのか?」

 その言葉に、思い違いである可能性が消える。

 ――社長は、私が、好き……?

 喉から飛び出しそうなくらい暴れる心臓に言い聞かせるように、胸の中で呟いた。

「おじゃま虫は退散いたしますね」

 お見合い相手の女性の声で、社長と見つめ合っていたことに気づいた。
 互いにはっと顔をそらす。
 視界の端で、ふふっと笑った彼女が去っていくのが見えた。
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