フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
 いきなり深くまで求めるようなキスに、くらくらしてしまう。
 やがて社長の唇が離れて、ふっと体の力が抜けた。

 そんな私を、社長は喉をクツクツ鳴らしながら受け止めてくれた。

「しゃ、ちょ――」

 ふう、と息を吐き出す。
 胸がまだ高鳴っている。

「そんな蕩けた顔をして、俺を誘っているのか?」

 目の前にいる社長は意地悪で、でもそんな社長もとても愛おしい。

「ちが――」

 言いかけ、社長はもう一回私の唇を奪った。
 今度は、軽く触れるだけの優しいキス。

「美緒、ありがとう。俺の世界を広げてくれたのは、お前だ」

 社長に抱きしめられるように抱えられる。
 そのまま、社長は優しく微笑んだ。

「俺は、会社の利益を上げるために――会社を動かすために生きてきた。だがそこには、皆の幸せが含まれているのだとお前が教えてくれた」

「え、私は、そんな……」

「謙遜するな。他人の幸せを作るのがやりがいだと、お前が啖呵を切ったから」

 社長はあの日を思い出しているのか、クスクスとまた笑った。

「俺の場合、手の届く範囲は広く……、社長として、従業員全てを守らなくてはならない。だから、皆に寄り添おうと決め、視察を増やしたんだ。それで学んだこと――庶民だから、従業員だからと切り離すのではなく、皆でよりよい会社を作っていくのが正当だと御笠家当主に話したら、それでいいと言われた。それで、俺の庶民研修は終了になったわけだが――俺に足りなかったのは、その部分だったんだな」

 社長はふっと自嘲するように息を漏らし、それから不意に優しい顔をする。
 そのまま、社長の右手、長い指が私の顔の輪郭をつーとなぞる。

「だが、一人の男として笑顔にしたいと思うのは、幸せを守りたいと思うのは――美緒、お前だけだ」

 私を見つめる社長の瞳に、私が映っている。
 幸せすぎる言葉に、たまらず涙が溢れてきた。
 それを、社長は親指の背で拭ってくれる。

「泣くほど嬉しいか?」

「……はい」

 分かっているくせに聞いてくる。
 そんなズルいところも、大好きだ。

 だから。

「大好きです、社長」

 私はぐっと背伸びをして、自分の両手をぎゅっと社長の首元に回した。
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