フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
 どこかズレている彼に、思わず大声を出す。
 彼の目はまん丸に見開かれた。

「……じゃあ、誰が食事を用意するんだ?」

 案の定の反応に、ため息をこぼす。

「自分で作ります。作れない人は、出来合いのお惣菜を買ってきたり、そういうので代用するんです」

「なるほど……」

 するとしばらくの後、後頭部をがしがしと掻いた。

「俺、何も作れないし、総菜? って、どこに売ってるんだ?」

「……」

 思わずぽかんと口が開き、眉間にしわが寄る。
 はぁ、とため息が漏れると、私は口走っていた。

「じゃあ食材持ってきますから、ちょっと待っててください!」

 *

 慌てて冷蔵庫から取り出した食材を、彼の部屋に運ぶ。
 昨日の夜に漬けておいた唐揚げ、それからお味噌汁。炊飯器が無かったので、白米を持参した。

「へえ……」

 彼はキッチンの向こう側から私の手元を覗いては、そんな声を漏らす。

「できましたよ」

 ダイニングまで食事を運んでいると、彼は不意にどこかへふらっと行ってしまう。
 戻ってきた時には、手に何かの瓶を持っていた。

「何ですか、それ」

「ワインだ」

 彼はニカっと笑って、私のいる後ろの棚からワイングラスを2つ取り出すと、テーブルへ運んだ。

「ロワール地方のロゼ・スパークリング。酸味と炭酸が揚げ物に合うからな。ボルドーとかブルゴーニュみたいに高級じゃないが、和食にはこれがいい」

 とん、とテーブルにワインを置き、得意げに話す彼。
 グラスに注いでくれたので、いただきますと手を合わせて、そっと口に含んでみる。

 ――ん、なんだか上品な味。

 高級じゃない、と言っていたけれども、それでも御曹司の持ってきたワインだ。安物のはずがない。
 向かいを見れば、目の前の彼は唐揚げを丁寧に小さく切り分け、上品に口に運んでいる。

 ――やっぱり、彼は御曹司(おぼっちゃま)

「食わないのか?」

 ちらりとこちらを見た彼の手が止まる。

「美味いぞ、これ。あ、お前が作ったんだから味は知ってるか」

 舌の肥えた彼にそう言われるのは嬉しいが、なんだか違うと胸の中がぞわぞわしてくる。
 私はもっとこう、唐揚げにかぶりつきたいし、お酒を飲むなら……ビールでしょ!

 思い立ち、立ち上がる。

「どうした?」

「ちょっと、お酒取ってきます!」

 私は冷えたビールを取りに、部屋に戻った。
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