御曹司の金持くんはマイペースな幼馴染にめっぽう弱い
「……金持くん」
「なに」
「今日お泊りする?」
「は」

 勢いよく振り返った金持くんを視界の端に留めたまま、私はスマホで電車の運転状況を確認し、眉を下げる。

「やっぱり雨で電車止まっちゃってる。警報も出てるし……」
「……」
「あ、でも金持くんタクシー呼べるんだった」
「泊まる」
「えっ?」
「泊まる」

 食い気味に被せてきた。
 まあ、いくら御曹司でもそう何回もタクシー使うのは無駄遣いだもんね、などと私は半分寝た頭で適当に納得する。

「そっか。じゃあおふとん出すね」
「……誰か泊めたことあんの?」
「ん? お母さんと妹ぐらいかなぁ」
「ふうん」

 金持くん、何かご機嫌だな。ほうじ茶めっちゃ飲んでる。

「あ、お風呂入っていいよ」
「げほッッ」
「大丈夫?」

 思い切り噎せた金持くんは口を押さえながらこくこくと頷いた。それから赤くなった顔を両手で覆い、「じゃあ、お言葉に甘えて」ともごもご言ってた。



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