御曹司の金持くんはマイペースな幼馴染にめっぽう弱い
「直田」
「びゃっわ」

 うろうろと歩き回りながら悶々としていたら、金持くんがお風呂から出たようだった。扉越しに掛けられた声に「なに?」と応じる。

「ごめん、Tシャツ乾かしていい? 結構濡れてた」
「……ドライヤーで? 傷んじゃうかもよ。あっ待ってて、私メンズのTシャツあったかも」
「え、何であんの」
「オーバーサイズが流行りって金持くんのファッション誌に書いてた」
「……そうでしたね」

 何やら反省するような声に首をかしげつつ、私はクローゼットからいくつか大きめのTシャツを選んで、扉の隙間から金持くんに手渡した。

「……ピッチピチだったらどうしよ。金持くん胸筋が凄いって」
「そんなに鍛えてないよ」

 笑い混じりに返され、それだけでちょっと頬が熱くなってしまう。

「あー大丈夫そう、いい感じ。……これ直田が着たら膝ぐらいまで行かない?」
「うん」

 扉が開いた。ツヤツヤほかほかの金持くんが出てきた。
 白いTシャツはちょうどいい大きさだったようで、金持くんが元々着てたジーンズによく似合ってた。
 というか金持くんが着たら全ての衣服はおしゃれに見えるのかもしれない。それ本当に私の服ですか、と思わず聞きたくなる仕上がりだ。

「それあげよっか……?」
「何でだ、洗って返すよ。風呂ありがとう」
「あ、いえいえ」

 うわ。今、金持くんから私のシャンプーの匂いがした。フルーティーな金持くんだ。心臓に悪い。
 できるだけ心を無にしてお風呂場の扉を閉める。ついでに深呼吸もしてから振り返ったら、金持くんが髪を拭きながら敷布団を見つめていた。

「ご、ごめんね、ファンシーなおふとんで」
「え? ああいや、別に、全然」

 ぱっと顔を上げては辿々しい言葉を返した金持くんは、見るからに動揺していた。
 お母さんたちを泊めたときの癖で、ベッドのすぐ隣に敷いたのが不味かっただろうか。いや絶対不味かっただろう。でも今から離したら金持くんを意識してますと公言してるみたいで、何だかそれも気まずいような。
 ──意識してるのは、もう、事実なんですけども。

「えっと、もう、寝よっか」

 思考放棄した私の言葉に、金持くんが反対するわけもなく。
 ああもう絶対眠れない。明日が土曜日なのが救いだ。とりあえず今日は延々と羊でも数えて凌ぐしか──。

< 13 / 26 >

この作品をシェア

pagetop