御曹司の金持くんはマイペースな幼馴染にめっぽう弱い
「……忘れられてると思ったのにな」

 直田はおかしな子だった。いやこれはちょっと語弊があるが……周りの人間と比べると異質だったのは確かだ。

 幼い頃から金持家の息子として扱われてきた俺は、『普通』とは程遠い暮らしを送っていた自覚がある。
 家には家族以外に使用人が何人もいて、それとは別に居住空間を管理する家政婦も別にいた。そして覚えきれないほどの親戚と客が頻繁に父を訪ねてきて、親同士が談笑している傍ら、俺も同年代の子女たちと引き合わされる日々だった。
 彼らは父の、ひいては旧財閥である金持家の古くからの友人だ。まだこの国に貴族制度なんてものがあった頃からの、由緒ある家柄の人間だが──中には時代錯誤な感覚を持つ者もいる。

『うちの娘と仲良くしてくれて、ありがとうね。新多くん』

 両親の前でわざとらしく語りかけてくる遠縁の男と、許嫁気取りで勝手に手を繋いでくる娘。幼いながら、図々しい親子だなと白けた気分になったことは数知れず。
 幸いだったのは、父がそういった婚姻での人脈作りを重視する人ではなかったことだ。

『え……新多くんは公立の小学校に通わせるのですか?』
『家から近いですからね。何か問題でも?』
『い、いえ……娘が寂しがるなぁと、はは』

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