御曹司の金持くんはマイペースな幼馴染にめっぽう弱い
 勝手に裏切られたような顔でそそくさと帰っていった彼の背中に、父は柔和な笑みでぼそりと呟いた。

『一体いつの時代を生きてるんだろうなぁ、彼』
『お父さん?』
『何でもないよ。小学校ではもっと面白い友達作っておいで』

 面白い友達とは。
 当時はよく分からないまま頷いたが、今なら父の言わんとしていたことが何となく理解できる。
 要は、俺のことを「金持家の御曹司」としてしか見ていない人々の輪から抜けて、いろんな人間と関わってほしかったのだろう。父は実家とそこに集う人々を、俺を人間として成長させるには適さない環境と判断したのだ。
 金持グループは今や、人々の生活に広く深く根差している。昔のように豪勢な屋敷でふんぞり返っているだけでは立ち行かない。これからも発展していくためには、様々な視点を持つことが肝要だ。
 その目を養うために、経営者としての教育は実家で、人としての教育は学校で、というのが父の方針だった。

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