御曹司の金持くんはマイペースな幼馴染にめっぽう弱い
「……わ、家に金持くんがいる」
「すぐ帰るよ」

 風呂場からそうっと居間を覗いたら、金持くんがくすみピンクのラグマットに座ってた。似合うな、くすみピンク。
 パジャマ姿で人前に出るのは恥ずかしかったけど、今はそうも言ってられない。小走りに金持くんの元へ向かい、床に正座する。
 金持くんは私の方をちらりと見て、首を痛めそうな速さでそっぽを向いた。

「あの、金持くん。お久しぶりです。中学の卒業式以来だね」
「……ん」
「さっきはごめんね。上着びしょびしょになっちゃったから干しといた」
「そんなこと別にいいから、何があったのか話せよ」

 金持くんの声は静かだった。
 そりゃそうだ。駅前で傘も差さずに座り込んでたら、誰だって不審に思う。それが幼い頃によく遊んだ相手なら、なおさら。

「飲み会に呼ばれたんだ」

 私はとりあえず口を開いた。

「まぁ全然お酒飲めないんだけど……」
「……飲めなさそうな顔してる」
「金持くんはガブガブ飲みそう」
「適当に言ってるだろ」

 呆れた声音にくすくすと笑ってしまってから、ふうと溜息がこぼれた。

「友達からはゼミの女の子だけって聞いてたんだけど……何か、部活のOB? っていう人たちもいて。合コンみたいなノリになっちゃってさ」
「男?」

 金持くんが低く尋ねる。

「うん。友達が就活のことで相談乗ってもらってたんだって。あ、金持食品じゃないかな。そこに務めてる人」
「へえ。で?」
「ええと……その人、すごく酔っ払ってて。お酒苦手ですって言ったんだけど、聞いてくれなくて」

 ──直田さん、お酒苦手なんだ? 可愛いね。
 耳元で囁かれた熱っぽい声が蘇り、ぞわりと肌が粟立つ。
 さりげなく距離を取っても大した意味はなく、むしろ離れようとすればするほど、あの人は脚が触れるほど密着してきた。

「腰とか、太腿とか触られて……気持ち悪かったからトイレに逃げて、ちょっと吐いた」
「…………」

 どんどん目付きが鋭くなっていった金持くんは、そこで苛立ちを逃がすように深い溜息をつく。
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