御曹司の金持くんはマイペースな幼馴染にめっぽう弱い
 こんなにピリピリとした金持くんを見るのは初めてだ。私が緊張しながらも続きを話そうとしたら、「一旦ストップ」と低い声が遮る。

「吐いたの何時間前?」
「……二時間ぐらい?」
「吐き気は?」
「もう大丈夫……金持くんどこへ……」

 話しながら、立ち上がった金持くんの後をついていく。
 台所に置いてあった電気ケトルを指し、「使っていい?」と聞かれる。よく分からないまま頷けば、金持くんは無言で水を沸かし始めた。
 二人で並んで湯沸かし器を眺めるのもあれだったので、私はおずおずと金持くんに尋ねる。

「何か飲みたかった?」
「俺じゃない。水分取っとけ」

 曰く、ただでさえお酒で脱水気味だったのに、嘔吐したことで更に体調が悪くなるかもしれない。だから湯冷ましを飲め、とのこと。
 金持くんの意図をやっと理解し、私はマグカップを二つ取り出した。

「じゃあ金持くんも飲んでね。ほうじ茶とココアどっちがいい?」
「……ほうじ茶」
「あ、キャラメルラテのスティックもあるよ」
「夜に飲むもんじゃないだろ」

 確かに。私は大人しくほうじ茶の粉末が入った袋を開けた。


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