御曹司の金持くんはマイペースな幼馴染にめっぽう弱い
 心臓が口から出るぐらい驚いてしまった私を、金持くんは容易く腕の中に収める。
 そして何の操作も出来ていないスマホをやんわりと取り上げた。

「金持食品の林山健人ね。覚えた」

 ぼそりと名前を確認してから、流れるようにブロック。ついでにトーク履歴も削除して、スマホを私の手に戻してくれる。
 その手つきは終始優しかったけど、私は後ろにいる彼が金持グループの御曹司様であることを改めて思い出し、スマホの真っ暗な画面を凝視したまま尋ねる。

「え……と、く、クビにしちゃうの?」
「俺にそんな権限ないよ。ただ──金持グループに性加害者なんか置きたくないのは父さんだって同じだしな」

 ──だから、ちょっと調べるだけ。
 調べものやレポートが得意だった金持くんの「ちょっと」がちょっとどころではないのは容易に想像がついたけど、会社のことに私が口を挟めるわけもなく。

「そ、そっか」
「うん。だから直田が罪悪感を覚えるのは間違い」
「はい」
「今日のことはさっさと寝て忘れろ、な?」

 大きな手に頭を控えめに撫でられながら、優しく言い聞かせられる。
 ここ、天国かもしれない──温かいし、金持くんが優しいし。いや金持くんは昔から優しかったけど。

「……いや、待て。寝ろって言ったけどもう? 早い早い早い、せめてベッドには行って、直田」

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