御曹司の金持くんはマイペースな幼馴染にめっぽう弱い
 お酒が残っていたのか、それとも緊張がほどけたせいか。うとうとと目を擦る私に気付いて、金持くんがにわかに慌て始める。
 すぐそこにあるベッドまで誘導されながら、私は眠気に侵された頭で口を開いた。

「金持くん、今日はごめんね。久しぶりに会えてすごく嬉しいのに、何か、嫌な話ばっかりしちゃった」
「……別にいいよ。直田があそこで座りっぱなしにならなくて良かった」
「ありがとう……。それとあの、メンズモデルってまだやってるの? 私ね、毎回欠かさず見てたよ」
「え」

 金持くんが不意をつかれたように目を丸くして、次の瞬間には顔が真っ赤になった。

「な、何でそんなもん見て……」
「スカウトされたんでしょ? すごいなぁ。特集組まれたときはイケメン御曹司! って大学の友達も騒いでたよ。あっ、そこの本棚に保管して」
「いい、いいから見せなくて」

 金持くんがスカウトされたきっかけは、高校生の時の陸上競技大会だったと思う。テレビに出たことで一躍有名人になって、ファッション誌で更に人気が出て……そこでちゃっかり金持グループの化粧品会社の宣伝してたなぁ、金持くん。
 思い出し笑いのついでに、ベッドに転がされた私は「そうだ」と笑顔を浮かべた。

「みーちゃんとの熱愛報道も」
「あれは違う!」

 目を瞬かせる私に、金持くんがハッと口を覆う。

「……撮影の後にたまたま二人でいたところを、撮られただけ。向こうも否定しただろ」
「そうだっけ……」
「そうだ」
「推しアイドルを金持くんに取られちゃったことがショックで記憶が……」
「そっちかよ……」

 どこかガッカリした口調で金持くんが項垂れる。そのまま盛大な溜息をついてベッドを背に座った彼の横顔は、まだ少し赤らんでいた。

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