義弟の恋人
そんなことをつらつらと考えながら鞄を肩にかけると、埃一つない綺麗に片付けられた自室から出てリビングへ向かった。

ダイニングキッチンのテーブルにパパの為の朝食がラップに掛けられている。

目玉焼きにカリカリベーコン、レタスのサラダ、美味しいと評判のパン屋で買ってきたクロワッサン。コーヒーは冷めてしまうので、自分で入れてもらうことにしている。

いつものように、パパの部屋のドアをコンコンと2回叩いた。

返事がないので勝手にドアを開け、パパが寝ているベッドの横に立ち、右手を腰に当てた。

「パパ。まだ寝てるの?」

「うーん。」

ベッドの中でもぞもぞと動いているパパが小さく唸った。

夜遅くに帰ってきたらしいパパは、まだ半分夢の中を彷徨っている。

「パパ!私、もう学校に行くからね。起きたらちゃんと朝ごはん食べてね。朝ごはんは一日の大事なエネルギー源なんだから食べなきゃダメだよ。わかった?」

「・・・う・・・ん。」

「返事は?!」

私の声にパパは慌ててがばっと身体を起こした。

そして呆けた顔を私に向け、頭をボリボリと掻いた。

「わかってるって。朝から大声ださないでくれよ。」

「パパがいつまでも返事しないからでしょ?」

「はいはい。すみませんね。」

「パパ、昨日も遅かったの?」

「ああ・・・。どうしても外せない接待があってさ。」

「だからか。部屋がお酒臭い。」

「そんなことないだろ?シャワーは浴びたぞ?」

「じゃあ加齢臭だ。」

「おまっ・・・それ一番オヤジに言っちゃいけないワードだぞ!」

パパの焦った顔を見て、私は少し満足した。

「ごめんごめん。じゃあ、行ってくるね。家を出るときは鍵をちゃんとかけてね。」

「ああ。皐月、気を付けてな。」

私が部屋のドアを閉める瞬間、パパが眠い目をこすり、再び布団の中へ潜り込むのが見えた。

パパとママが離婚してもう3年が経つ。

私はパパもママも大好きだから、正直二人の離婚はショックだった。

でも子供でも立ち入ることの出来ない、夫婦にしかわからないこともあるのだろう。

パパとの二人暮らしも、もう慣れた。

その暮らしに大きな変化が訪れるなど、この時の私は考えてもいなかった。


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