義弟の恋人
義弟の噂
あずみから廉が年上女性と歩いていたという噂を聞いたのは、数学の先生が病欠し自習になった今日の3時限目のことだった。
私が数学の教科書を開き予習をしていると、後ろの席のあずみが私の肩を叩いた。
私は少し不機嫌そうな顔を作りながら、あずみの方へ身体を向けた。
「なあに?今は自習の時間よ?」
「大変!数学の問題なんて解いてる場合じゃないわよ。スキャンダルよお!」
話したくてたまらない様子のあずみの顔を見て、私は大きくため息をつき、しぶしぶ話を聞くポーズを取る。
クラス委員たるもの、自らすすんで噂話に耳を傾けるわけにはいかない。
けれど内心私の心は好奇心で一杯だった。
あずみの噂話はソースがしっかりしていて信憑性があるのだ。
もちろんあずみもそんな私の心の内などお見通しで、決して話を止めたりなどしない。
「で?どうしたの?」
私が話を聞く体勢を取ると、あずみは目を輝かせながら口を開いた。
「皐月、有坂って知ってる?」
「うん。知ってるよ。あの背の高い子でしょ?」
「そう。バレー部でセッターの。」
あずみもバレー部に入っていて、エースアタッカーだ。
同じバレー部同士、部活帰りにファーストフードへ寄った時に、その噂が話題に出たらしかった。
「有坂がね、従姉と隣町のショッピングセンターへ、お祖母ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行ったんだって。その時に目撃したらしいよ。五代君が綺麗な黒髪ロングの女性と一緒に歩いているところをさ。」
私の胸がどきんと大きく高鳴り、そしてじわじわと痛みが広がっていった。
「そう・・・なんだ。」
廉と義姉弟になる前にもその噂は私の耳にも入っていたから、覚悟はできていた。
でも知り合いの確かな目撃証言ともなると、やはり衝撃は隠せなかった。
私はつとめて冷静に聞こえる様に言った。
「その噂、けっこう前からあったじゃない?今更って感じ。」
「そうだけど・・・前は都市伝説?みたいにおぼろげな噂だったけど、今回は違うじゃない?知り合いがばっちり見ちゃったんだもん。皐月、五代君とそういう話、しないの?」
「しないよ。そんなの。」
「あーあ。五代君くらいイケメンだと、同年代の女子なんて対象外なのかもネ。」
「・・・そうかもね。」
「心配?」
あずみが私の顔を覗き込んだ。
「それはそうだよ。だって仮にも家族だもん。それに校則違反だわ。」
「ほんとにそれだけ?」
「そうよ。それ以外なにがあるっていうの?」
「ふーん。ま、いいけど。そんなに心配なら直接聞いてみなよ。五代君本人に。」
「・・・・・・。」
あずみの言葉に私は答えることが出来なかった。
簡単に聞けるならとっくにそうしてる。
でも、それは廉のプライバシーを暴くことになる。
家族とはいえ、まだ私と廉は知り合ったばかりだ。
それなのにそんなことまで口出ししていいものなのだろうか?
それに・・・真実を知りたくない自分がいる。
本当のことを知ってしまったら、どう廉に接したらいいのかわからなくなるような気がしてそれが怖いのだ。
あずみの強い視線を感じ、私は顔をあげた。
「なあに?」
私がそう聞くとあずみは「ごめん。皐月の気持ちも考えないではしゃいじゃって。」と頭を下げた。
「ううん。教えてくれてありがと。あずみ。」
私はあずみの目をみて微笑んだ。
私が数学の教科書を開き予習をしていると、後ろの席のあずみが私の肩を叩いた。
私は少し不機嫌そうな顔を作りながら、あずみの方へ身体を向けた。
「なあに?今は自習の時間よ?」
「大変!数学の問題なんて解いてる場合じゃないわよ。スキャンダルよお!」
話したくてたまらない様子のあずみの顔を見て、私は大きくため息をつき、しぶしぶ話を聞くポーズを取る。
クラス委員たるもの、自らすすんで噂話に耳を傾けるわけにはいかない。
けれど内心私の心は好奇心で一杯だった。
あずみの噂話はソースがしっかりしていて信憑性があるのだ。
もちろんあずみもそんな私の心の内などお見通しで、決して話を止めたりなどしない。
「で?どうしたの?」
私が話を聞く体勢を取ると、あずみは目を輝かせながら口を開いた。
「皐月、有坂って知ってる?」
「うん。知ってるよ。あの背の高い子でしょ?」
「そう。バレー部でセッターの。」
あずみもバレー部に入っていて、エースアタッカーだ。
同じバレー部同士、部活帰りにファーストフードへ寄った時に、その噂が話題に出たらしかった。
「有坂がね、従姉と隣町のショッピングセンターへ、お祖母ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行ったんだって。その時に目撃したらしいよ。五代君が綺麗な黒髪ロングの女性と一緒に歩いているところをさ。」
私の胸がどきんと大きく高鳴り、そしてじわじわと痛みが広がっていった。
「そう・・・なんだ。」
廉と義姉弟になる前にもその噂は私の耳にも入っていたから、覚悟はできていた。
でも知り合いの確かな目撃証言ともなると、やはり衝撃は隠せなかった。
私はつとめて冷静に聞こえる様に言った。
「その噂、けっこう前からあったじゃない?今更って感じ。」
「そうだけど・・・前は都市伝説?みたいにおぼろげな噂だったけど、今回は違うじゃない?知り合いがばっちり見ちゃったんだもん。皐月、五代君とそういう話、しないの?」
「しないよ。そんなの。」
「あーあ。五代君くらいイケメンだと、同年代の女子なんて対象外なのかもネ。」
「・・・そうかもね。」
「心配?」
あずみが私の顔を覗き込んだ。
「それはそうだよ。だって仮にも家族だもん。それに校則違反だわ。」
「ほんとにそれだけ?」
「そうよ。それ以外なにがあるっていうの?」
「ふーん。ま、いいけど。そんなに心配なら直接聞いてみなよ。五代君本人に。」
「・・・・・・。」
あずみの言葉に私は答えることが出来なかった。
簡単に聞けるならとっくにそうしてる。
でも、それは廉のプライバシーを暴くことになる。
家族とはいえ、まだ私と廉は知り合ったばかりだ。
それなのにそんなことまで口出ししていいものなのだろうか?
それに・・・真実を知りたくない自分がいる。
本当のことを知ってしまったら、どう廉に接したらいいのかわからなくなるような気がしてそれが怖いのだ。
あずみの強い視線を感じ、私は顔をあげた。
「なあに?」
私がそう聞くとあずみは「ごめん。皐月の気持ちも考えないではしゃいじゃって。」と頭を下げた。
「ううん。教えてくれてありがと。あずみ。」
私はあずみの目をみて微笑んだ。