真白に包まれて眠りたい
16.今の仕事は楽しくない

その1 おもしろくない
 自動車関係の品質保証。不具合調査、内部監査、そのほか標準類の取扱等。
 まあなんと面白くないことか。品質保証だから生産性のない仕事だ(というと怒られそうだが)。不具合品にばかり向き合っている。目指す方向がわかりやすいこと、一つの案件が短期間で終わることは良いが、何も面白くない。原因を解明して、おしまい。製造不具合が疑われれば製造現場に是正要求。そしてちゃんと是正されたか、それが保たれているかを監査。
 不具合を減らすことは確かに大切なことだ。損失を出さないことにつながる。なのにどうしてこんなにも面白くないのだろう。製品に興味がないからだろうか? 化粧品や文房具なら興味を持てただろうか?
 ところで、皆この仕事が楽しくてしているのだろうか? 未来に希望やビジョンを持っているのだろうか? 想像もつかない。

その2 管理が杜撰
 大企業なのにこんなにも管理やルールが杜撰なものだろうか。古い会社だからというのもあるかもしれない。どこもこんなものだろうか。小さな不正など当たり前で、何度も繰り返す。小さな問題は指摘されるまで放置。見て見ぬ振りが上手い。
 機械の使い方や調査器具の運用ルールも聞かされていない。マニュアルがどこにあるかも知らない。管轄は品質保証部ではなく、借りている立場なのだという。だからか、機器に関する教育は同僚から口頭で指導、後から知らないルールが沢山出てくる。
 欠員が出れば業務に支障をきたすような、人頼りの仕組みではいけない。誰でもその業務ができるよう標準化を進めなければならない。だがその時間はない。既に残業祭り。そもそも残業したくない。

その 上司が怖い
 部長が怖い。優秀なのはわかる。効率が大切なのはわかる。時間がないのはわかる。怒鳴ったりはしない。だがその不機嫌そうな顔と声色をやめろ。早口で畳み掛けるような関西弁をやめろ。どれだけ部下が怯えているか理解していないのか、それとも恐怖で制圧しようとしているのか。そう思ったらたまに優しい。完全にDVの図。たまに褒められるから少し頑張ろうと思えてしまう。怖い。普段は「こんなんじゃあかんやろ」とか「なんでこんなことしてるん」とか「遅すぎる」とか「意味ないやんこんなん」とか「もっと早くしてくれへん?」とかまあ怖いものだ。自分に関係がなく、隣で聞いているだけでも身がすくむ。女性に対しては少しだけ優しくなるのもまた、大いに気分が悪い。

その この仕事に時間を使いたくない
 お金を稼ぐためだけに働いているのなら全く時間の無駄だ。お金は手に入れられても、精神的ストレスと時間の消費がやまない。同じ時間を費やすのなら、楽しいと思える仕事ややりがいを感じられる仕事がしたい。おそらく皆がそう思っているはずなのに、実現は難しい。世の中には楽しくない仕事が山ほどある。時間の消費だけならまだいい、精神的ストレスは勘弁してほしい。怪我の恐怖から解放されたい。上司に怒られたくない。

その 数年後もこの仕事をしていることが怖い
 先輩の姿を見てそう思った。1年後、2年後、5年後、10年後の私の姿がそこにある。全然憧れない。恐怖しかない。来年もこの仕事を続けている? この職場で? 愛想笑いと冷や汗を纏って……? 怖い。たかが仕事、だがこの仕事に一日8時間盗られている。怖い。

その 何が嫌なのか
 この仕事の嫌なところがある。そして他にしたいことがある。この二つは全く別のものだ。同じにしてはいけない。今の仕事から逃げるためにしたいことを探すのではない。私は何が嫌なのか。明確に嫌なのは、実作業が多いことだ。切断機械、研磨機、ボール盤……私が学生時代避けて通ってきたものだ。電池は化学じゃなかったのか。私の考えが甘かった。手を動かす作業なら、せめて化学実験を。機械なんて触りたくない。怖い。あの轟音、モーターの回転、金属……すべてが嫌悪の対象だ。入る会社を間違えたようだ。製薬会社だったらよかっただろうか? 大型機械を触りたくない。この点は他の会社の品質保証部にいけば解決する。多分、電池が重くなくて、汚くなくて、切断工程が無ければ、私は問題なく品質保証の仕事を続けられるだろう。楽しいとは思わないが。私の好きな"標準化"はどの職場でもできて、どの職場でも必要であるとわかった。品質保証部にいる必要はない。

その 私の望みは何か
 難しい問い。私がしたいこと。

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