真白に包まれて眠りたい
03.別れ

 別れ、というものは苦手だ。私は別れるのが得意ではない。来るものは拒み、来ないものを求め、去る者は追う。天邪鬼ではない。どんな小さな出会いであっても、別れを避けたいと思う。町でたまたま仲良くなった誰かの連絡先を知りたくてたまらない。一期一会という四字熟語を見ると殴られた気分になる。縋りつく関係性は美しくない。結局、縁があるものはいずれまた出会う。縁がないものはつなぎとめていても、いつか会わなくなる。非科学的なものは嫌いだが、人間関係においては別だ。むしろ、曖昧さを愛している。言葉や理論で説明なんてできなくていい。
 SNSで甘い言葉を交わして恋愛をするのが嫌いだ。トーク履歴にすがってしまうからだ。そのトーク履歴を消したら、何が残るのだろう、と思ってしまうからだ。口頭の会話は、記録などされない。ほとんどの記憶は抜け落ち、見返すことなどできない。印象に残った言葉や大切な言葉だけが、洗練されて思い出すことを許される。トーク履歴に縋るような関係性を作りたくない。失ったら終わりだと思ってしまうほどのものを持っていたくない。だけど、もう手遅れである。私と彼とのトーク履歴は、くだらない話と、幾度の喧嘩と、幾度の愛情表現で埋め尽くされている。読み返すのも億劫なほどに。そして私はこれを手放せない。本当は、手放したい。でも、抱きしめて死にたい。だけど、こんなもの、持っていたくない。重たすぎる。もしこれをなくしたらと思うと、不安がとまらない。このトーク履歴がふたりのすべてだなんて思いたくない。大切であることに間違いはない。だけど、記憶の中で生きていてほしい。いつでも見返せるなんて、美しくない。一瞬一瞬を、大切にしていたい。SNSなんて、業務連絡だけでじゅうぶんだ。
 それでも結局私はトーク履歴は消せないし、今日も彼に好きだと送る。おやすみなさい。
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