真白に包まれて眠りたい
05.秋

 6時半に家を出て、20時頃に家に帰る。そんな生活をしていると、一足先に秋に出会える。私は秋が好きだ。秋は死にたさと生きたさの両方を漂わせている。鈴虫の声、揺れる稲穂、少し肌寒い風、微睡を誘う涼しさ。この世界に包まれていると、このまま溶けて消えてしまいたいと思う。このささやかな風に乗って、さらさらと身体が溶けていけばいいのに。そう願って叶ったことはないが、秋はいつも窓際から離れられない。いつもは世界に明日に絶望するばかりだが、この時だけは、こんな世界ならもう少し生きてもいいかもしれないと思える。私にとって秋はそんな季節だ。過ぎた夏を憂えることも、冬への期待と寂しさも、きっと秋が好きな理由だ。夏は過ぎた頃が一番美しく見える。
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