真白に包まれて眠りたい
08.性癖

 性癖や性的嗜好。これは驚くほど人によって様々だと思う。表立って話すことではないから、平均されなかったのかもしれない。それか、特に強い欲求だから、個性が色濃く出るのだろうか。まあそんなことはどうだっていい。

 いつも困ることがある。彼氏とセックスする時に、襲ってくれないことだ。私にも原因はある。毎回、不慣れだから優しくしてほしいと頼んでしまう。初めて関係を持ってホテルに行った男とは、結局最後まで挿入行為をしなかった。といっても、三ヶ月くらいで、付き合ってもいなかったが。私は、むしろ強引にされるのが好きだと気付いたが、それを言えなかった。ふざけ合っている時に突然ベッドに押し倒され、キスをしながら服を脱がせられるあの興奮を、私は数回しか味わえていない。押し倒されたい。服は脱がされたい。両腕を抑えられたい。上から意地悪そうな顔で見られたい。私がどれだけ興奮していても、知らぬふりで「ん?」「どうしたの?」ととぼけてほしい。それか、「なんでこんなになってるの?」と定番台詞を吐いてほしい。それだけでもう、満足してしまう。
 もっと欲を言えば、私がまずちょっかいを出し、次第に彼に下腹部を押し付けられ、そして形勢逆転するのが、一番興奮する。漫画の話です。
 優しい男ばかりだった。押し倒されることはない。言葉で許可をとってから。服も、無理に脱がしたら伸びるから自分で脱いでと言われる。腕を抑えられることなどない。意地悪そうな顔もしない。心配そうに、「大丈夫?」と言われるばかり。
 何度か怒らせたことがある。押し倒されたいあまり、寝転ぶたびに起き上がり小法師のように何度も起き上がった。服を脱がされるのが好きなあまり、脱いだ服を何度も着た。腕を抑えられたいあまり、体を腕で何度も隠したり、相手の手を止めようとした。結局毎回「したくないの?」と言われ、これが間違いだったことに気づく。したくないわけじゃないと答えると、じゃあどうして抵抗するのと言われる。強引に襲われたいからですとは言えなかった。こうして相手のやる気を失わせ、結局こちらが強引に誘う、ムードも何もない時間が始まるのだった。
 だから、経験豊富で余裕のある男が好きだ。結局、にやにやしながら見つめられたいのだ。どういじめてやろうかと、いっそ私の要求など無視して、好き勝手にしてほしい。
 そう、セックスは始まる前が一番好きだ。
 私がセックスに求めているものは、愛や快感ではなく、自分は求められているのだという喜びだった。だからこそ強引に襲われたいし、襲われた時点でもう満足する。あとは気持ちよさと幸せを貪るだけだ。猛烈に痛いが、それもまた幸せだった。



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