一夜の甘い夢のはず
「こちらなど、今日のお召し物によく映えると思いますよ」
テーブルに鏡とトレーが置かれ、白手袋が手にしたのはプラチナの華奢なチェーンにティアドロップ型の朱色の宝石がついたネックレスだった。
宝石はそう大きくはないけれど、カットの仕方なのか奥行きのある輝きを放っていて、存在感がある。そっと胸元に添えられると、固いネイビーのニットに軽さが出て一気に華やかになった。
ショッピングモールで買った服まで高級そうに見えてくるから不思議。
「ピアスは開けてらっしゃらないようなので、こちらなどもいかがでしょうか」
次に添えられたのは、耳元に真珠のイヤリングだった。雨だれのように連なって、私の丸顔も華やかになる。
本物の真珠の艶やかさに、感嘆のため息がもれる。
子どもたちに引っ張られて危ないから仕事中はピアスをつけなくなって、ピアスホールが埋まってから久しい。耳元に彩りがあるだけで、気分が上がる。
「それ以外でしたら、こちらの指輪などもお客様の指によく似合うかと」
ネックレスをトレイに戻すと、今度はシンプルな――たぶん、ダイヤモンドの指輪を示される。
流れるような動きで手を取られ、薬指に指輪が通される。指輪のサイズなんて教えてないし自分でも知らないんだけど、指輪は極端にブカブカということもなく私の指に収まった。
プロポーズ以外で、他人に指輪をはめてもらう日が来るなんて思わなかった。
手をかざして、まじまじと見つめる。柔らかなV字のウエーブの曲線に沿って小粒の宝石が並んだ指輪が彩ると、関節が太くて短い私の指も、なんだかほっそり長くなったような気がした。
「アラ、猫に小判ね」
突然の失礼な言葉に、声の主に自然と視線向く。
発したのは、もちろん雛宮さんじゃない。音もなく入ってきた人物に雛宮さんも驚いた様子で、私と雛宮さんの視線を受けて立つのは赤いワンピーススーツの女性。
彩度の高い赤を黒い釦が引き締めて、とてもエレガント。下手したらお笑い芸人になりそうな色なのに、品を感じさせる。ただ黒いだけのストレートヘアーなのに、尋常じゃない艶がありただの髪さえ彼女を彩る宝飾の一つになっていた。
「晴政お兄様が珍しい猫を連れ込んでるっていうから見に来たけど……」
腕を組んで、品定めするように私を頭の先からつま先までなめるように見る。
赤い唇が歪むたびに、私を毒する言葉が発せられる。
テーブルに鏡とトレーが置かれ、白手袋が手にしたのはプラチナの華奢なチェーンにティアドロップ型の朱色の宝石がついたネックレスだった。
宝石はそう大きくはないけれど、カットの仕方なのか奥行きのある輝きを放っていて、存在感がある。そっと胸元に添えられると、固いネイビーのニットに軽さが出て一気に華やかになった。
ショッピングモールで買った服まで高級そうに見えてくるから不思議。
「ピアスは開けてらっしゃらないようなので、こちらなどもいかがでしょうか」
次に添えられたのは、耳元に真珠のイヤリングだった。雨だれのように連なって、私の丸顔も華やかになる。
本物の真珠の艶やかさに、感嘆のため息がもれる。
子どもたちに引っ張られて危ないから仕事中はピアスをつけなくなって、ピアスホールが埋まってから久しい。耳元に彩りがあるだけで、気分が上がる。
「それ以外でしたら、こちらの指輪などもお客様の指によく似合うかと」
ネックレスをトレイに戻すと、今度はシンプルな――たぶん、ダイヤモンドの指輪を示される。
流れるような動きで手を取られ、薬指に指輪が通される。指輪のサイズなんて教えてないし自分でも知らないんだけど、指輪は極端にブカブカということもなく私の指に収まった。
プロポーズ以外で、他人に指輪をはめてもらう日が来るなんて思わなかった。
手をかざして、まじまじと見つめる。柔らかなV字のウエーブの曲線に沿って小粒の宝石が並んだ指輪が彩ると、関節が太くて短い私の指も、なんだかほっそり長くなったような気がした。
「アラ、猫に小判ね」
突然の失礼な言葉に、声の主に自然と視線向く。
発したのは、もちろん雛宮さんじゃない。音もなく入ってきた人物に雛宮さんも驚いた様子で、私と雛宮さんの視線を受けて立つのは赤いワンピーススーツの女性。
彩度の高い赤を黒い釦が引き締めて、とてもエレガント。下手したらお笑い芸人になりそうな色なのに、品を感じさせる。ただ黒いだけのストレートヘアーなのに、尋常じゃない艶がありただの髪さえ彼女を彩る宝飾の一つになっていた。
「晴政お兄様が珍しい猫を連れ込んでるっていうから見に来たけど……」
腕を組んで、品定めするように私を頭の先からつま先までなめるように見る。
赤い唇が歪むたびに、私を毒する言葉が発せられる。